見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

読んだもの(書籍)

就職氷河期世代の罠/中高年シングル女性(和田静香)

〇和田静香『中高年シングル女性:ひとりで暮らすわたしたちのこと』(岩波新書) 岩波書店 2025.12 著者は「中高年シングル女性」の当事者だというが、私もそうである。なので以前から、このカテゴリーについて書かれたルポや評論は、わりあい気にして目を…

ゆらぐ秩序、束の間の自由/商人の戦国時代(川戸貴史)

〇川戸貴史『商人の戦国時代』(ちくま新書) 筑摩書房 2025.8 戦国時代史はあまり得意でないのだが、本書は面白かった。気になる記述のページを折っていたら、折り込みだらけになってしまった。本書は戦国時代の経済活動、特に商人の活動に注目する。中央権…

生きている信仰世界/中国TikTok民俗学(大谷亨)

〇大谷亨『中国TikTok民俗学:スマホからはじまる珍神探訪』(NHK出版新書) NHK出版 2025.12 本書の冒頭にある自己紹介によれば、著者は厦門に暮らす日曜民俗学者で、日本語教師のかたわら、休みになれば各地へフィールドワークに出かけ、「民間信仰」の調…

奴隷制度から現在まで/アメリカ史とレイシズム(中條献)

〇中條献『アメリカ史とレイシズム』(岩波新書) 岩波書店 2025.10 読み終えたあと、すぐに感想を書きたい本もあれば、書きたくない本もある。これは完全に後者だった。本書は、アメリカという国家を「セトラー・コロニアリズム」に基づく社会と定義し、そ…

これから世界はどうなるか/世界秩序(田所昌幸)

〇田所昌幸『世界秩序:グローバル化の夢と挫折』(中公新書) 中央公論新社 2025.9 子供の頃からなんとなく、世界は試行錯誤しつつも望ましい方向に進んでいくように思ってきたのだが、この10年くらい、期待が裏切られることが多くて、悲観的になっている。…

存続のためのシステム/後宮:宋から清末まで(加藤徹)

〇加藤徹『後宮:宋から清末まで』(角川新書) KADOKAWA、2025 『後宮:殷から唐・五代十国まで』の続編である。扱われる王朝は、宋、遼、金、元、明、清。非漢民族による征服王朝(遼、金、元)を別にすると、日本人にも比較的なじみのある時代ではないか…

キリスト教徒の国、アメリカ/福音派(加藤喜之)

〇加藤喜之『福音派:終末論に引き裂かれるアメリカ社会』(中公新書) 中央公論新社 2025.9 最近のアメリカの政治状況をめぐって、なぜか古めかしい宗教用語を耳にすることがある。福音派(エヴァンジェリカル)は、元来、プロテスタント教徒を指す一般的な…

新しい読みもの中国史/後宮(加藤徹)

〇加藤徹『後宮:殷から唐・五代十国まで』(角川新書) KADOKAWA、2025 「後宮とは何か」と題した40ページほどの序章では、中国の後宮の特異性がざっくり語られている。後宮は皇帝の世継ぎを安定的に供給するシステムである。そのために女性の貞操と妊娠は…

政治家として、家庭人として/蒋介石(家近亮子)

〇家近亮子『蒋介石:「中華の復興」を実現した男』(ちくま新書) 筑摩書房 2025.8 蒋介石(1887-1975)には、特に関心を持っていたわけではない。大陸中国のドラマでは悪役側だし、台湾史でも民主化を阻んだ独裁者の印象が強い。それが、ちょっとした気の…

戦後80年に読む/南京事件 新版(笠原十九司)

〇笠原十九司『南京事件 新版』(岩波新書) 岩波書店 2025.7 著者の旧版『南京事件』は1997年刊行だが、私は読んでいない。新版には新たな史料発見や研究の発展が取り込まれているが、旧版が日本軍史料を多用し「殺す側の論理・作戦」に従って叙述したのに…

『史記』と任侠的心性/古代中国の裏社会(柿沼陽平)

〇柿沼陽平『古代中国の裏社会:伝説の任侠と路地裏の物語』(平凡社新書) 平凡社 2025.3 『史記』遊侠列伝にも取り上げられた大侠・郭解(前漢時代、紀元前170年頃~)の生涯をたどりながら、古代中国の裏社会を多面的に描き出す。著者は、前著『古代中国…

日本支配への抵抗/琉球処分(塩出浩之)

〇塩出浩之『琉球処分:「沖縄問題」の原点』(中公新書) 中央公論新社 2025.6 「琉球処分」とは、日中の両属国家だった琉球王国を日本が強制併合した過程をいう。これは本書のカバーの袖(折り返し)や帯に記載された説明であるが、著者は「まえがき」で、…

2025年7月関西旅行:藤田美術館、大阪歴史博物館など

■藤田美術館 『酔』(2025年7月1日~9月30日)『雨』(2025年6月1日~8月31日)『鳥』(2025年5月1日~7月31日) 「酔」には菱川師宣筆『大江山酒吞童子絵巻』あり。全体にパステルカラー系の色合い。鬼たちも頼光一行も、あまり強そうでない。『饕餮禽獣文…

美術の近代を目指して/東京美術学校物語(新関公子)

〇新関公子『東京美術学校物語:国粋と国際のはざまに揺れて』(岩波新書) 岩波書店 2025.3 東京美術学校(東京芸術大学の前身)は、1887(明治20)年10月に創立が決定し、明治22(1889)年2月に最初の学生を受け入れた。芸大では明治20年を起点に創立何周…

在地に生きた人々の記録/幕末社会(須田努)

〇須田努『幕末社会』(岩波新書) 岩波書店 2022.1 幕末、すなわち西暦でいうと19世紀前半の日本社会について、まず前提となる江戸時代の社会枠組みを確認したのち、「天保期(1830-1844)」「弘化から安政期(1845-1860)」「万延から文久期(1860-1864)…

暴力と差別の由来/イスラエルについて知っておきたい30のこと(早尾貴紀)

〇早尾貴紀『イスラエルについて知っておきたい30のこと』 平凡社 2025.2 パレスチナ・ガザ地区の状況は、断片的なニュースから推測しても本当に惨いらしい。しかし私はイスラエル・パレスチナ問題について、きちんと思考できるほどの知識がないので、一から…

史書への向き合い方/二十四史(岡本隆司)

〇岡本隆司『二十四史:『史記』に始まる中国の正史』(中公新書) 中央公論新社 2025.4 「二十四史」とは、中国の史書の系列(シリーズ)の総称である。おおむね歴代王朝を単位(ユニット)にして編纂を重ねた書物群で、合計24部が「正史」と見做されている…

次代を育てる/国立大学教授のお仕事(木村幹)

〇木村幹『国立大学教授のお仕事:とある部局長のホンネ』(ちくま新書) 筑摩書房 2025.4 韓国政治を専門とする木村幹先生の著作は『韓国現代史』『全斗煥』など、何冊か読んでいるが、今度は「大学教授という仕事」について書いたというので、へえ~(物好…

国境を超える銅銭/歴史のなかの貨幣(黒田明伸)

〇黒田明伸『歴史のなかの貨幣:銅銭がつないだ東アジア』(岩波新書) 岩波書店 2025.3 経済史というのは、私にはやや苦手な分野なのだが、現代人の常識をくつがえす話がたくさんあって、たいへん面白かった。人類の歴史を振り返ると、政府が通貨供給を独占…

権利と責任の主体/消費者と日本経済の歴史(満薗勇)

〇満薗勇『消費者と日本経済の歴史:高度成長から社会運動、推し活ブームまで』(中公新書) 中央公論新社 2024.8 本書は戦後日本の社会と経済の変化を消費者の姿から読み解いていく。「消費者」という言葉が学問の議論を超えて使われ始めるのは1920年代、さ…

出会い、包み込まれるまで/アメリカ・イン・ジャパン(吉見俊哉)

〇吉見俊哉『アメリカ・イン・ジャパン:ハーバード講義録』(岩波新書) 岩波書店 2025.1 本書は、著者がハーバード大学の客員教授として2018年春学期に行った講義「日本の中のアメリカ」を活字化したものである。ちなみに2018年は最初のトランプ政権の2年…

悪の帝国像を忘れて/帝国で読み解く近現代史(岡本隆司、君塚直隆)

〇岡本隆司、君塚直隆『帝国で読み解く近現代史』(中公新書ラクレ) 中央公論新社 2014.12 「帝国」をキーワードに近現代史(18世紀~現代)を捉え直してみようという対談。ヨーロッパ国際政治史の君塚先生も中国史の岡本先生も大好きなので、わくわくしな…

公設浴場の普及/風呂と愛国(川端美季)

〇川端美季『風呂と愛国:「清潔な国民」はいかに生まれたか』(NHK出版新書) NHK出版 2024.10 「まえがき」に言う。現代に暮らす日本人の多くは、毎日風呂に入るのが当たり前だと思っている。しかしいつから私たちは毎日風呂に入るのが「当たり前」だと思…

下り坂の先に/東京裏返し 都心・再開発編(吉見俊哉)

〇吉見俊哉『東京裏返し 都心・再開発編』(集英社新書) 集英社 2024.12 2020年刊行の『東京裏返し』では、都心北部を歩いて歴史の古層を探索し、「東京についてのあまりにも自明化されたリアリティ」を「裏返し」していく実践を示した著者が、本作では都心…

七人の大統領で知る/韓国現代史(木村幹)

〇木村幹『韓国現代史:大統領たちの栄光と蹉跌』(中公新書) 中央公論新社 2008.8 戦後、日本の植民地支配からの解放と米国の占領を経て、1948年に大韓民国が建国される。以後、60年間(本書の刊行まで)の韓国現代史を、個性豊かな大統領たちの姿を通じて…

モンゴルの英雄物語/元朝秘史(白石典之)

〇白石典之『元朝秘史:チンギス・カンの一級資料』(中公新書) 中央公論新社 2024.5 『元朝秘史』という書物の存在は知っていたが、具体的な内容は知らなかった。なので「はじめに」と序章の紹介を読みながら、へえ!へえ!と唸ってしまった。この書のおお…

苗字はなかった/女の氏名誕生(尾脇秀和)

〇尾脇秀和『女の氏名誕生:人名へのこだわりはいかにして生まれたか』(ちくま新書) 筑摩書房新社 2024.9 同じ著者の『氏名の誕生』がとても面白くて、知らなかったこと、あるいはぼんやり気になっていたことを気持ちよく理解できたので、姉妹編の本書も必…

昭和天皇の肉声/象徴天皇の実像(原武史)

〇原武史『象徴天皇の実像:「昭和天皇拝謁記」を読む』(岩波新書) 岩波書店 2024.10 『昭和天皇拝謁記』は、戦後、宮内府長官および宮内庁長官を務めた田島道治(1885-1968)の日記・書簡等の記録をまとめたもので、2021年から23年にかけて岩波書店から刊…

明るい独裁者/全斗煥(木村幹)

〇木村幹『全斗煥:数字はラッキーセブンだ』(ミネルヴァ日本評伝選) ミネルヴァ書房 2024.9 「あとがき」によれば、著者は2011年から5年間「全斗煥政権期のオーラルヒストリー調査」という研究プロジェクトに関わったが、2010年代後半には、まだ多くの政…

民主主義の覇権国家/アメリカ革命(上村剛)

〇上村剛『アメリカ革命:独立戦争から憲法制定、民主主義の拡大まで』(中公新書) 中央公論新社 2024.8 このところ仕事が忙しくて読書レポートが書けていなかったが、11月5日の大統領選挙より前に読み終えていたものである。現実の選挙結果のインパクトが…