見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

読んだもの(書籍)

昭和天皇の肉声/象徴天皇の実像(原武史)

〇原武史『象徴天皇の実像:「昭和天皇拝謁記」を読む』(岩波新書) 岩波書店 2024.10 『昭和天皇拝謁記』は、戦後、宮内府長官および宮内庁長官を務めた田島道治(1885-1968)の日記・書簡等の記録をまとめたもので、2021年から23年にかけて岩波書店から刊…

明るい独裁者/全斗煥(木村幹)

〇木村幹『全斗煥:数字はラッキーセブンだ』(ミネルヴァ日本評伝選) ミネルヴァ書房 2024.9 「あとがき」によれば、著者は2011年から5年間「全斗煥政権期のオーラルヒストリー調査」という研究プロジェクトに関わったが、2010年代後半には、まだ多くの政…

民主主義の覇権国家/アメリカ革命(上村剛)

〇上村剛『アメリカ革命:独立戦争から憲法制定、民主主義の拡大まで』(中公新書) 中央公論新社 2024.8 このところ仕事が忙しくて読書レポートが書けていなかったが、11月5日の大統領選挙より前に読み終えていたものである。現実の選挙結果のインパクトが…

おいしい町歩き/東京の喫茶めし(ぴあMooK)

〇ぴあMooK『東京の喫茶めし』 ぴあ 2024.8 東京の喫茶の名店と名物メニュー、スパゲッティ、サンドイッチ、カレー、オムライス&オムソバ、モーニング、さらにスイーツは、パフェ、ホットケーキ、プリンアラモード、あんこ、コーヒーゼリー、クリームソーダ…

ファンダムの可能性/実験の民主主義(宇野重規)

〇宇野重規;聞き手・若林恵『実験の民主主義:トクヴィルの思想からデジタル、ファンダムへ』(中公新書) 中央公論新社 2023.10 宇野先生の著書は『〈私〉時代のデモクラシー』『民主主義とは何か』などを読んできたので、だいたいどのような内容が展開す…

歴史物語としての魅力/吾妻鏡(藪本勝治)

〇藪本勝治『吾妻鏡-鎌倉幕府「正史」の虚実』(中公新書) 中央公論新社 2024.7 『吾妻鏡』は、鎌倉幕府の公式記録として1300年頃に編纂された史書で、治承4年(1180)に源頼朝が伊豆で挙兵してから、文永3年(1266)に第6代将軍宗尊親王が京都に送還され…

関東大震災に先立つ経験/災害の日本近代史(土田宏成)

〇土田宏成『災害の日本近代史:大凶作、風水害、噴火、関東大震災と国際関係』(中公新書) 中央公論新社 2023.7 20世紀初頭は、世界的に大規模な自然災害が相次いだ時期だった。災害は他国にも報道され、国境を超えた義援、救援、調査研究などが整備されて…

掘れば化石の宝庫/恐竜大国 中国(安田峰俊)

〇安田峰俊著;田中康平監修『恐竜大国 中国』(角川新書) 角川書店 2024.6 まるで縁のなかった分野の著書だが面白かった。現在、世界で最も多くの恐竜が見つかっているのは中国なのだという。中国国内で骨格の化石が見つかり、2020年12月までに学名がつい…

政治的分断の構造/ネットはなぜいつも揉めているのか(津田正太郎)

〇津田正太郎『ネットはなぜいつも揉めているのか』(ちくまプリマ―新書) 筑摩書房 2024.5 著者は、2020年9月、アニメ『銀河英雄伝説』のリメイクについて「男女役割分業の描き方は変更せざるをえない気がする」云々とツイートしたところ、批判的なリプライ…

アメリカ式に学ぶ/台湾のデモクラシー(渡辺将人)

〇渡辺将人『台湾のデモクラシー:メディア、選挙、アメリカ』(中公新書) 中央公論新社 2024.5 1996年に総統の直接選挙が始まり、2000年には国民党から民進党への政権交代を実現させた台湾は、英国エコノミスト誌の調査部門が主催する「民主主義指数(Demo…

「面白い」を追いかける/老後は上機嫌(池田清彦、南伸坊)

〇池田清彦、南伸坊『老後は上機嫌』(ちくま新書) 筑摩書房 2024.6 生物学者の池田清彦先生とイラストレーターの南伸坊氏の語り下ろし(おそらく)の対談。私は南伸坊さんの著作は、もう30年以上愛読しているが、池田清彦さんのことは初めて知った。生物学…

解体される民主主義/「モディ化」するインド(湊一樹)

〇湊一樹『「モディ化」するインド:大国幻想が生み出した権威主義』(中公選書) 中央公論新社 2024.5 インドについては、ほとんど何も知らない自覚があったので、最近、近藤正規さんの『インド:グローバル・サウスの超大国』(中公新書、2023.9)を読んで…

21世紀に続く戦後処理/日ソ戦争(麻田雅文)

〇麻田雅文『日ソ戦争:帝国日本最後の戦い』(中公新書) 中央公論新社 2024.4 日ソ戦争とは、1945年8月8日から9月上旬まで満州・朝鮮半島・南樺太・千島列島で行われた第二次世界大戦最後の全面戦争である。日本の敗戦を決定づけただけでなく、東アジアの…

訴訟社会の伝統/訟師の中国史(夫馬進)

〇夫馬進『訟師の中国史:国家の鬼子と健訟』(筑摩選書) 筑摩書房 2024.4 訟師とは、近代以前の中国で人々が訴訟しようとするとき、訴状の作成などを助けた者たちである。大半の読者にとって「訟師」とは初めて聞く言葉であろう、と著者は冒頭に述べている…

古墳、治水から現代の再開発まで/大阪がすごい(歯黒猛夫)

〇歯黒猛夫『大坂がすごい:歩いて集めたなにわの底力』(ちくま新書) 筑摩書房 2024.4 私は東京生まれで箱根の西には暮らしたことがないが、ときどき大阪の本が読みたくなる。著者は大阪南部、岸和田市育ちで、大阪に拠点を置くライター。60年以上、ずっと…

現地調査から見えるもの/中国農村の現在(田原史起)

〇田原史起『中国農村の現在:「14億分の10億」のリアル』(中公新書) 中央公論新社 2024.2 著者の専門は農村社会学。20年にわたり、中国各地の農村に入り込んでフィールドワークを実践してきた経験をもとに本書は書かれている。 中国の農民とは、どういう…

静養と密談の空間/戦後政治と温泉(原武史)

〇原武史『戦後政治と温泉:箱根、伊豆に出現した濃密な政治空間』 中央公論新社 2024.1 扱われている時代は終戦の1945年から1960年代半ばまで、主な登場人物は、吉田茂、鳩山一郎、石橋湛山、岸信介、池田勇人などで、そんなに古い話ではないのだが、なんだ…

私にも作れます/あたらしい家中華(酒徒)

〇酒徒『手軽 あっさり 毎日食べたい あたらしい家中華』 マガジンハウス 2023.10 中華料理愛好家の酒徒(しゅと)さんの名前は、ときどきネットで拝見していた。特に印象深いのは、本書にも掲載されている「肉末粉絲」(豚ひき肉と春雨の炒め煮)の紹介を見…

旅の仲間とその終わり/両京十五日(馬伯庸)

〇馬伯庸;齊藤正高、泊功訳『両京十五日』(HAYAKAWA POCKET MYSTERY BOOKS) 早川書房 2023.2-3 馬伯庸の名前は、中国ドラマ好きにはすっかりおなじみであるが、彼の長編歴史小説が日本語に翻訳されるのは初めてのことらしい。遅いよ!全く!しかし待たさ…

信用調査に見る近世大坂の社会/三井大坂両替店(萬代悠)

〇萬代悠『三井大坂両替店(みついおおさかりょうがえだな):銀行業の先駆け、その技術と挑戦』(中公新書) 中央公論新社 2024.2 三井高利が元禄4年(1691)に営業を開始した三井大坂両替店は、両替店を名乗りながら両替業務にはほとんど従事せず、基本的…

コロナ・パンデミックを振り返る/感染症の歴史学(飯島渉)

〇飯島渉『感染症の歴史学』(岩波新書) 岩波書店 2024.1 コロナ下で読んだ『感染症の中国史』(刊行はもっと前)の著者の新刊が出たので読んでみた。はじめに新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的な流行)の「起承転結」を振り返り、この経験を…

古くて若い大国/インド(近藤正規)

〇近藤正規『インド:グローバル・サウスの超大国』(中公新書) 中央公論新社 2023.9 最近、政治や経済でも、エンタメでも名前を聞くことの多いインド。しかし私がこの国について思い浮かぶことといえば、堀田善衞の名著『インドで考えたこと』(1957年刊、…

説話と史料から/地方豪族の世界(森公章)

〇森公章『地方豪族の世界:古代日本をつくった30人』(筑摩選書) 筑摩書房 2023.10 先日、久しぶりに神保町に行って、三省堂の仮店舗をのぞいた。ふだんと違う書店に入ると、ふだんと違う本が目につくもので、本書が気になって手に取ってみた。そうしたら…

桓武王朝の試行錯誤/謎の平安前期(榎村寛之)

〇榎村寛之『謎の平安前期:桓武天皇から『源氏物語』誕生までの200年』(中公新書) 中央公論新社 2023.12 今年の大河ドラマ『光る君へ』が紫式部を取り上げていることもあって、平安時代に関する書籍がけっこう注目を集めているように思う。平安時代は平安…

歴史を掘り、人に会う/京博深掘りさんぽ(グレゴリ横山)

〇グレゴリ横山『京博深掘り散歩』(小学館文庫) 小学館 2023.11 お正月に京博に行ったら、ミュージアムショップに本書が積まれていた。京博のウェブサイトに2021年4月から2023年3月まで「グレゴリ青山の深掘り!京博さんぽ」のタイトルで連載されていた漫…

雇用労働の多様な発展/仕事と江戸時代(戸森麻衣子)

〇戸森麻衣子『仕事と江戸時代:武士・町人・百姓はどう働いたか』(ちくま新書) 筑摩書房 2023.12 歴史的に見れば、絶えず変化してきた人々の働き方。本書は、現代日本人の働き方の源流を江戸時代に求める。その前提として、中世においては、人々が自ら選…

日本人と日本文化の起源/縄文人と弥生人(坂野徹)

〇坂野徹『縄文人と弥生人:「日本人の起源」論争』(中公新書) 中央公論新社 2022.7 本書のオビの表面には、縄文人と弥生人の復元模型の顔写真を並べて、大きな赤字で「日本人とは何者か?」と書かれていた。裏面には「縄文人と弥生人はいかなる人びとであ…

中国の多元性/物語 江南の歴史(岡本隆司)

〇岡本隆司『物語 江南の歴史:もうひとつの中国史』(中公新書) 中央公論新社 2023.11 「江南」は、一般的には長江下流部の南方を指す用語だが、本書ではもう少し広く、中国語の「南方」の意味で使っている。北方=中原がまさに「中国」であるのに対して、…

覇者の交代/都会の鳥の生態学(唐沢孝一)

〇唐沢孝一『都会の鳥の生態学:カラス、ツバメ、スズメ、水鳥、猛禽の栄枯盛衰』(中公新書) 中央公論新社 2023.6 千葉県市川市に住み、都立高校に勤める著者が、半世紀以上にわたって「都市鳥」を観察してきた経験をまとめたもの。都市鳥とは、都会に生息…

絶望、たまにハッピーエンド/円(劉慈欣)

〇劉慈欣;大森望、泊功、齊藤正高訳『円:劉慈欣短編集』(ハヤカワ文庫) 早川書房 2023.3 『三体』の劉慈欣の短編集。1997年に発表されたデビュー作『鯨歌』から2014年の『円』まで13編を発表順に収録する。豪華なクルーズ船に乗った謎の西洋人たちが登場…