見もの・読みもの日記

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就職氷河期世代の罠/中高年シングル女性(和田静香)

〇和田静香『中高年シングル女性:ひとりで暮らすわたしたちのこと』(岩波新書) 岩波書店 2025.12

 著者は「中高年シングル女性」の当事者だというが、私もそうである。なので以前から、このカテゴリーについて書かれたルポや評論は、わりあい気にして目を通してきた。古くは酒井順子氏の『子の無い人生』とか、飯島裕子氏の『ルポ貧困女子』とか。しかし、過去の著作が、20~30代、せいぜい40代の単身女性を論じていたのに対して、2020年以降、より高齢のシングル女性に注目が集まっているという。

 本書は「中高年シングル女性」を、同居する配偶者やパートナーがいない40歳以上の単身女性(独身、離婚、死別、非婚/未婚の母、夫と別居している女性で、親や祖父母、子どもと暮らしている場合も含む)と定義する。実際に著者のインタビューに答えている女性たちの家庭環境はさまざまだだが、年齢は40代半ばから60代初めが中心である。彼らは、1990年代半ばから2000年代初頭にかけて社会に出た「就職氷河期世代」に当たる。厳しい雇用状況の中、20年以上非正規で働くことを余儀なくされてきた彼女たちに追い打ちをかけたのが、2020年度から地方公務員に導入された「会計年度任用職員」という制度である(国家公務員にはその前から同様の制度あり)。日本では、学校や役所の事務、図書館司書、保育士、ケースワーカー、家庭児童相談員など、多くの公共サービスが、こうした非正規公務員によって担われている。非正規公務員の75.8%が女性で、4人に1人が単身者であり、40~50代が6割を占めるという数字は衝撃的だった。

 中高年シングル女性の多くは「住まい」にも不安と困難を抱えている。古い家屋の修繕費の捻出は難しく、わずかな年金では、民間の家賃を払い続けることができない。家賃以前に高齢者に拒否感を持つ民間住宅の貸主も多い。一方で、単身者向けの公営住宅は全く足りていない。戦後の住宅政策が、男性稼ぎ主世帯をモデルにしてきたことが一因であるという。政策の重点課題は理解できなくもないが、人口動態や社会の変化に基づき、もう少し早期の政策転換が必要だったのではないだろうか。

 いろいろ溜め息の出る記述が多いが、幸いなことに、私自身は生活にそれほど困難を感じていない。それは、私が就職氷河期世代よりほんの少し早く生まれたためだと思う。当時、働くというのは正規雇用の身分に就くことを意味していた。民間には、敢えて流動的な身分を選ぶ人たちも出てきていたが、私が選んだ公的セクターは、ほぼ正規雇用で固められていた。特に深く考えることもなく、そこに参入して働き続けてきた結果、単身でもまあまあ安定した老後の見通しが立てられている。

 けれども、私よりすぐ下には、生活の不安を抱えたシングル女性が大量に発生しているし、さらに下の世代にも、残念ながらこの傾向はじわじわ拡大しているように思う。抗議しなければ何も変わらないのだから、個人の尊厳を守るために声をあげよう、というのは著者の最後のメッセージである。私は連帯も抗議も苦手な性質だが、自分が幸運にも得た生活の余力を、できれば、少しは誰かのために使っていきたいと思っている。