〇『太平年』全48集(中国中央電視台他、2026年)
久しぶりに本格的な歴史ドラマを見ることができて大満足。舞台は「五代十国」と言われる中国の分裂時代で、絶え間ない戦乱と異民族の侵攻、飢餓と殺戮が日常になっていた。開封(汴京)で出会った三人の若者、呉越国の王子・銭弘俶(銭九郎)、のちに後周を立てる郭威の養子・郭栄、のちの宋太祖・趙匡胤は、いつか「太平年景(平和な時代)」を実現し、一杯の熱酒を飲みたいと夢を語り合う。
「五代十国」とひとくちに言うが、中原に興亡した五つの王朝、梁→唐→晋→漢→周(慣例で全て後を冠する)が皇帝を名乗り、十国は皇帝に封じられた地方政権(大王)だった。呉越国では、大王が没すると後継者は「留后」を名乗り、皇帝の信任を得るまで「大王」を名乗れない、という描写があって、なるほどと思った。
呉越国は2代・銭元瓘が没した後、六男・銭弘佐が後を継ぐ。宮廷で暗然たる権力を握っていたのは、開国以来の功臣である胡進思。このほかにも、利権に目をつけた程昭悅や何承訓という奸臣が暗躍する。銭弘佐は、廷臣たちの舵取りに疲弊して死去。後を継いだ弟(七男)の銭弘倧は胡進思らのクーデターに遭って失脚。胡進思の推挙で、銭弘俶が大王となる。胡進思は銭弘俶が慕っていた水丘昭券を謀殺しており、銭弘俶としては許しがたかったはずだが、私心を抑えて胡進思を重臣に留め置く。胡進思も銭弘俶の怖さを十分知りながら、呉越国のために彼の即位を望む。やがて寿命を迎えた胡進思は、呉越国の存続を銭弘俶に託して死んでゆく。孫と祖父ほど歳の違う二人の、単純な愛憎を超えた君臣関係はとてもよかった。胡進思を演じた倪大紅さん、ありがとう。
一方、中原では後晋の高祖・石敬瑭が没したあと、2代・石重貴が擁立されるが、政務には無関心で、契丹(遼)の侵攻を招く。後晋の滅亡後、太原の劉知遠が後漢を建国し、契丹軍が引き上げた後の開封に入城した。劉知遠が没すると、2代・劉承祐が即位。しかし劉承祐は、実力も人望もある枢密使(軍制を統括)・郭威を嫌って、その一族妻子、および養子の郭栄の妻子も皆殺しにする暴挙に出る。郭威は部下の兵士たちに促されて帝位につくことを決意、後漢を滅ぼして後周を建てる。この長い混乱の時代、何度も入れかわる皇帝と廷臣たちを横目に見ながら、文官にも武将にも一目置かれ続けた政治家(官僚)が馮道である。演じた董勇さんは、静かな語り口に慈愛と悲哀が満ちていて魅力的だった。郭威を演じた蒋恺さんは、やや悪役顔なので警戒していたら、民衆の安寧を第一とする立派な皇帝になって驚いた。寝所でしどけない姿の郭威が、馮道を身近に呼んで、二人でひそひそと理想の政治を語り合っているシーンがあって、このドラマで一番萌えてしまった。
郭威の後を継いだ郭栄は、国土統一のため諸国との戦いの先頭に立ちつつ、軍制の改革、租税軽減など、様々な施策を積極的に進めていく。しかしこのドラマでは真面目に政務に取り組む皇帝は、ことごとく身体を壊して早世してしまうのである。郭栄が遺した太子は幼く、不安を抱いた兵士たちは、禁軍の長であった趙匡胤に即位を迫る。かつて郭威に即位を迫った趙匡胤は、巡ってきた因果に慄きながら(このドラマでは、まともな分別のある者は誰も皇帝になりたがらない)運命を受け入れる。馮道は宋の建国までは見届けられなかったんだな。でも近づく太平年景を予感することはできただろうか。
趙匡胤は、各地に割拠する諸国を次々に征服。南唐征伐では呉越国の銭弘俶と連携する。南唐の官員・李元清(実在人物らしいが脚色あり)の暗躍とか、それに乗ぜられる銭弘俶の世子とか、小さいドラマはいくつかあるが、前半の展開に比べると小粒な印象。中国全土統一を目前にして趙匡胤も体調を崩して急逝。むかし笠沙雅章氏の『宋の太祖と太宗』で読んだ「燭影斧声」の逸話がきちんと映像化されていた。しかし同書で紹介されていた陰謀論のほのめかしは全くなくて、太宗・趙匡義(光義)はふつうに兄思いの弟だった。そして呉越国の「納土」(地方権力の返還)は趙匡義の時代に達成される。この後、宋王朝の歴史も決して順風満帆ではないけれど、五代十国の戦乱に比べれば、ましと言えるのではないかな。朱亜文の趙匡胤は、全くカリスマ性が感じられないところが逆によかった。
ほとんど知識のなかった時代や人物が、はっきりイメージできるようになったことはありがたく、政権による服飾(官帽とか)の違いも面白かった。呉越国は日本(平安時代)と交易の記録があるのだが、そんな小ネタもちゃんと取り入れられていた。個人的には、すっかり後周推しになってしまったので、郭威と郭栄(柴栄)の陵墓を訪ねてみたい。どちらも河南省新鄭市(鄭州市の一部?)にあるらしい。
肖戦主演『射鵰英雄伝:侠之大者』(2025年)の日本公開を記念して、2003年版ドラマの第1話~3話を映画館で上映するという、1回限りの企画の話を聞いて見てきた。客席は4~5割の入りだったけれど、最後に拍手が起きたりして、私のほかにもこの作品が好きな人がいるんだなあと嬉しく思った。
清朝末年、古平原は徽州(安徽省)の農家の倅だったが、科挙を受けるために上京した際、古平原の名前を呼ばわり「母親が病気だ!」と告げる声を聞いて取り乱し、試験会場を騒がせてしまう。その罪により、極寒の流刑地・寧古塔に送られて、5年が過ぎていた。
人気シリーズの第3季。今季も面白かった! 老獪な頭脳派の蘇無名と、頑固な武闘派青年・盧凌風のバディを中心に、おなじみの仲間たちが、さまざまな怪事件を解決していく。今季は「康国的金桃」「成仏寺的哭声」「白澤的蹤跡」「諾皐記」「旗亭画壁」「去天尺五」「借齢者」「盛世馬球」の8つのエピソードで構成されている。
2019年に公開された中国アニメ映画『
「九陰真経」「東邪西毒」「南帝北丐」の感想は別稿にまとめたので、ここでは最後の「五絶争鋒」について紹介する。
評価は分かれるかもしれないが、個人的には、かなり好きなタイプの作品だった。確か初期の情報では『金庸武侠世界』という総合タイトルで全5ユニットが制作される、という話だったように思う。2024年に原作の『射鵰英雄伝』のストーリーにほぼ準拠した(かなり端折ってはいたが)『金庸武侠世界・鉄血丹心』全30集が公開された後、残りはどうなるんだろう?と思っていたら、この夏、めでたく『華山論剣』のタイトルで「九陰真経」「東邪西毒」「南帝北丐」「五絶争鋒」の4ユニットが連続公開された。