〇NHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺(つたじゅうえいがのゆめばなし)~』全48回
私がこのブログで大河ドラマについて書くのは、2017年の『おんな城主直虎』以来、8年ぶりである。この間、楽しんだ作品はいくつかあるが、作品との出会いを書き残しておきたいと思うほどではなかった。森下佳子さんの脚本は、ファンから「鬼」と呼ばれるほど情緒を揺さぶられるのだが、その背後には、資料や情報を読み込んだ上での知的な構成があって、そこが私の好みに合うのだと思う。
制作発表があったのは2023年4月だというが、正直ピンと来なかった。主人公の蔦重こと蔦屋重三郎(1750-1797)の名前は知っていたが、私は、江戸の浮世絵・黄表紙にはあまり関心がなく、2010年にサントリー美術館で開催された展覧会『歌麿・写楽の仕掛け人 その名は蔦屋重三郎』も見たはずなのだが、感想も残していない。また、主演の横浜流星くんの名前も全く知らなかったので、え?そんな若い俳優さんで大丈夫?という感じだった。だが、2023年のドラマ10『大奥』を担当した大原拓氏がチーフ演出をつとめ、『JIN-仁-』の時代考証家・山田順子さんが関わるなど、私は出演者よりも、むしろスタッフの陣容が明らかになるにつれて、徐々に期待を高めていった。
物語は、明和の大火(明和9/1772年)から始まる。再建された吉原だが、非公認の岡場所や宿場の女たちに客を取られ、経営は苦しかった。吉原の女郎屋・駿河屋の養子として育った重三郎(蔦重)は、思い余って老中・田沼意次に訴えに行くが、「お前は何か客を呼ぶ工夫をしているのか?」と諭され、新たな『吉原再見』の出版によって客を引き付けようと考える。ここから「出版」「書物」が自他に及ぼすパワーに目覚める蔦重。それを先導するように「書を以って世を耕す=耕書堂」という店の名前をプレゼントするのが平賀源内。そして、蔦重は、吉原の女郎屋から、地本問屋、浮世絵の絵師たち、狂歌師と黄表紙の作者たちなど、一歩ずつ世界を広げていく。一方、江戸城では、将軍・徳川家治の信任を受けた田沼意次が、幕府財政の改革に取り組んでいたが、強硬な施策は反発を生み、権力の帰趨をめぐって、さまざまな陰謀が仕掛けられていた。この「江戸市中」の物語と「江戸城」の物語が徐々に融合していくのが、終盤の手に汗握る見どころだった。
まあしかし、見どころはそこだけではなく、どの回もずっと面白かった。この人が退場したら作品の魅力が半減するんじゃないかと思っていると、新しい魅力的なキャラが投入されたり、なんとなく存在していた人物が、急に面白さを発揮したりした。
平賀源内が興味深い人物であることは知っていたけど。安田顕さん、ほんとに源内先生が生きていたらこんな感じだろうという納得感しかなかった。田沼意次は、むかしの教科書で習ったので、悪徳ワイロ政治家だ思っていたが、本作でかなりイメージを書き換えられた。ぜひ最近の研究書を読んでみたい。渡辺健さんは老いの演技がよかったなあ。将軍・家治については何のイメージもなかったので、今後は眞島秀和さんの印象が基準になりそう。死に際の鬼気迫る演技が忘れ難い。松平定信は、まさかこんなに面白い人物に描かれるとは思わなかった。井上祐貴さんには感謝しかない。
そして、数々の陰謀の黒幕・一橋治済。【ネタバレ】になるが、本作では松平定信らが治済を眠らせて拉致し、治済と瓜二つの相貌を持つ阿波蜂須賀家の能役者・斎藤十郎兵衛(生田斗真さん二役)を治済の身代わりに仕立てることに成功する。私はそんなに多くの大河ドラマを見てきたわけではないが、ここまで振り切った「歴史改変」は珍しいのではないだろうか。しかし唐突な「歴史改変」ではなく、「ありえなくはない」説明を丁寧に積み上げてきた過程に信頼がおけたので、ドラマとして受け入れやすかった。後日談として面白かったのは、一橋治済にちゃんと天誅が下されないと、視聴者が納得しないのではないかという思いから、だんだんこの結末に傾いていったという森下佳子さんの説明。まるで敵討ちの首謀者になった気持ちで、このとき、生き残っていて敵討ちに協力してくれるのは誰か?を必死で探して、将軍家斉や、亡き家治の弟・清水重好を巻き込んだのだという。面白い。
蔦重とかかわった本屋さん、絵師、作家たちは、みんな個性豊かで最高だった。森下さんは、おじさんの描き分けが大変だったというけれど、 朋誠堂喜三二(尾身としのり)、山東京伝=北尾政演(古川雄大)、恋川春町(岡山天音)は、今後、この名前を見るごとに彼らの顔が浮かぶと思う。喜多川歌麿(染谷将太)が、蔦重に対して根源的な恋心を抱いているという設定も大変よかった。これは森下さんご自身が丁寧に歌麿の作品を見て感じ取られたこと(春画『歌満くら』には、この人は性に対して嫌な経験があったんじゃないかと感じるものがあるとか、『歌撰恋之部』が恋文にしか見えないとか)と、考証家の先生が「ぼくは喜多川歌麿の絵の中に、すごく女性に対する理解とか、女性っぽい感覚を感じるんだ」とおっしゃるのを聞いたことが発端らしい。考証家ってどなた?と思ったら、東博の松嶋雅人先生ではないか。2025年の特別展『蔦屋重三郎 コンテンツビジネスの風雲児』の企画担当者でもあるが、私は『あやしい美人画』(東京美術)の著者として記憶しており、女性像の読解には信頼のおける先生である。
先週末、大河ドラマ館が閉館するというので、最後にもう一度、行ってきた。前回買うのをためらった復刻版(和装本)の黄表紙を購入しようと思っていたら、なんと全て売り切れていた。いや、和装本が売り切れるってファン層がマニアックすぎるでしょ、と苦笑してしまった。ゲストに制作統括の藤並英樹氏が来ていて、いろいろお話を聞かせてくれた。田沼意次ゆかりの静岡県・牧之原市と松平定信ゆかりの福島県白河市では、ドラマを縁に交流が始まり、昨年9月、牧之原市が竜巻被害に遭ったときは、白河市から応援が派遣されたという話には、ちょっと本気で感動した。蔦重と瀬川が夢見た「恩が恩を呼ぶ話」みたいで、めでたい。決め科白は、ありがた山。
人気シリーズの第3季。今季も面白かった! 老獪な頭脳派の蘇無名と、頑固な武闘派青年・盧凌風のバディを中心に、おなじみの仲間たちが、さまざまな怪事件を解決していく。今季は「康国的金桃」「成仏寺的哭声」「白澤的蹤跡」「諾皐記」「旗亭画壁」「去天尺五」「借齢者」「盛世馬球」の8つのエピソードで構成されている。
2019年に公開された中国アニメ映画『
「九陰真経」「東邪西毒」「南帝北丐」の感想は別稿にまとめたので、ここでは最後の「五絶争鋒」について紹介する。
評価は分かれるかもしれないが、個人的には、かなり好きなタイプの作品だった。確か初期の情報では『金庸武侠世界』という総合タイトルで全5ユニットが制作される、という話だったように思う。2024年に原作の『射鵰英雄伝』のストーリーにほぼ準拠した(かなり端折ってはいたが)『金庸武侠世界・鉄血丹心』全30集が公開された後、残りはどうなるんだろう?と思っていたら、この夏、めでたく『華山論剣』のタイトルで「九陰真経」「東邪西毒」「南帝北丐」「五絶争鋒」の4ユニットが連続公開された。
ヒットメーカーの馬伯庸原作。しかも2019年にドラマ化された『
人気俳優・肖戦(シャオ・ジャン)主演の復讐古装劇ということで注目を集めていたドラマだが、私はあまり感心しなかった。舞台は架空の王朝・大雍(雰囲気は明代)。