〇『華山論剣』全30集(騰訊視頻他、2025年)
「九陰真経」「東邪西毒」「南帝北丐」の感想は別稿にまとめたので、ここでは最後の「五絶争鋒」について紹介する。
■「五絶争鋒」全6集
「東邪西毒」「南帝北丐」の物語から10年くらい先になるのだろうか。ある晩、仮面の集団に両親を殺された少女・葭蘭は、武功の奥義書「九陰真経」の在り処を知る雄一の証人「活地図」となる。葭蘭を助けたのは黄薬師。妻の病を治療するため「九陰真経」の「療傷篇」を必要とする黄薬師は葭蘭を連れて桃花島に向かう。その途中、古い友人・欧陽鋒を石羊寨に訪ねた黄薬師は、その葬儀の場に行き当たる。
欧陽鋒の兄の白駝山荘荘主・欧陽錯は、邪教の明教に帰順し、欧陽鋒を死んだと偽って地下牢に幽閉していた。黄薬師は欧陽鋒を救出し、葭蘭の保護を託す。欧陽錯は確保した葭蘭を明教の一味に引き渡すことで、人質になっている我が子・克児を取り戻そうとしていた。欧陽鋒は兄を退け、白駝山荘の人々とともに明教の軍勢に抵抗するが、多くの人々が命を失う。駆けつけた黄薬師の加勢によって明教軍は撤退したものの、復讐を誓う欧陽鋒は、「九陰真経」を手に入れるため、黄薬師のもとから葭蘭を強奪して去る。
その頃、「活地図」葭蘭の行方を知った大理国の皇帝・段智興は、愛妃・劉瑛とともに欧陽鋒を追い、葭蘭を奪取する。しかし葭蘭は自ら白駝山荘の毒薬を服毒し、瀕死の病人だった。段智興と劉瑛は、全真教の本拠地である終南山に駆け込む。王重陽の弟子の全真七子たちが治療に当たってくれたが、そこに現れたのは洪七公。全真教の丐幇を見下した態度に対して、幇主として抗議に来たのである。乱戦の中で、二人目の洪七公が出現し、さらに混乱を招くが、正体は明教の李臥月だった。
遊歴から戻った王重陽は、「九陰真経」の帰趨を決するため、三日後、武術大会「華山論剣」を行うことを宣言する。妻のため、復讐のため、国力のため、共同体の名誉のためなど、それぞれの理由で華山の山頂を目指す四人。しかし遅れてその場に現れたのは、明教教主の鐘絶聖と明教選りすぐりの達人たち。「九陰真経」をエサに江湖に抗争を引き起こしたのは明教の陰謀だった。戦う五絶の勇者たちのために「九陰真経」の口訣を暗唱する葭蘭、その意図をたちまち把握して明教教主を葬り去ったのは王重陽。「九陰真経」は王重陽のものとなり、四人はそれぞれの世界に戻っていった。
アクションシーンには、さまざまなバリエーションがあって、どれもカッコよかった。私が一番好きなのは、華山の絶壁の山道を舞台にした段智興と洪七の格闘かな。もちろん特撮だろうが、むかし行った華山の風景を思い出して、肝が冷える思いで堪能した。「東邪西毒」「南帝北丐」の青年時代から月日が過ぎて、それぞれ抱える重荷ができた四人が戦うという設定も好ましかった。
登場人物で一番魅力的なのはやっぱり欧陽鋒(高偉光)。葭蘭に「この世では強いことが正義なんだ」と語る場面、セピア色の画面が抒情的でよい。崋山論剣の前夜、どこかの客桟で飲み客たちが「西域人の欧陽鋒が九陰真経を勝ち取るなんて”痴心妄想”だろう」「死にに行くようなものだ」と無責任に放言しているのを、ひとりで豆か何かを齧りつつ、笑ってうなずきながら聞いている欧陽鋒には惚れた。そこに現れた兄の欧陽錯(趙魏)が、華山行きを止めさせようと説得するも頑として聞かない。
明教に魂を討った欧陽錯だが、最後は弟を守って命を落とす。しかも「お前の骨肉」である克児を託して。黄薬師は何度欧陽鋒に裏切られても「彼は朋友だ」と言う。彼は全てを失った「可怜的(かわいそうな)人」だとも。人間が真に強くなるには、守るべき対象が必要だと黄薬師は考える。そして、その言葉どおり、華山を下りた欧陽鋒は幼い克児をおんぶして西域の故郷に帰っていくのである。『射鵰英雄伝』の結末は知っているのだけど、なんとかこの父子が幸せに長寿を全うする世界線はないものかとしみじみ考えてしまった。