見もの・読みもの日記

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父と息子の商人哲学/中国ドラマ『大生意人』

〇『大生意人』全40集(愛奇藝、2025年)

 清朝末年、古平原は徽州(安徽省)の農家の倅だったが、科挙を受けるために上京した際、古平原の名前を呼ばわり「母親が病気だ!」と告げる声を聞いて取り乱し、試験会場を騒がせてしまう。その罪により、極寒の流刑地・寧古塔に送られて、5年が過ぎていた。

 寧古塔を統括するのは、荒くれ者の徐管帯。古平原は、その才覚を重宝がられて、徐管帯の下で使い走りをしながら、脱走の機会をうかがっていた。そして、ついに実行に移す。追って来た徐管帯から古平原を救ったのは、寧古塔に馬の買い付けに来ていた山西商人の常四爺。瀕死の古平原は、常四爺の娘の常玉児の看病で命を取り留め、彼らの本拠地である山西省の平遥に落ち着く。しかし金貸し(票号)の王天貴は、常家の財産乗っ取りをたくらんでいた。古平原は、モンゴルまで馬疫の薬を運ぶ危険な任務を請け負って莫大な利益を上げ、さらに老八家と呼ばれる富豪たちの力を借りて、王天貴の悪だくみを撃破しただけでなく、老八家の一員に迎え入れられる。その頃、寧古塔で知り合った、北京の大商人・李万堂の息子の李欽が平遥に現れて新たに票号を開くが、古平原との競争に負けて撤退する。こうして少しずつ商売の怖さと面白さを学んでいく古平原だったが、故郷に残してきた母親と許嫁の白依梅を思って、いったん帰郷を決める。

 徽州は反乱軍の跋扈によって疲弊していた。医術の心得のある白依梅は、拉致されて、反乱軍の首領・李成の治療に携わり、次第に李成に惹かれていく。古平原の尽力もあって解放された依梅だったが、村の人々の見る目は冷たく、彼女は自らの意思で李成のもとに戻っていく。やがて反乱は政府軍によって鎮圧される。

 平和の戻った村で、お茶づくりに取り組む古平原は、銘茶「蘭雪」を生み出し、これを大々的に売り出そうとするが、商人組合である安徽茶商会に阻まれる。背後には北京の李万堂の差し金があった。北京の恭親王府で開催された万茶大会に潜り込んだ古平原は、たまたま出会った西太后(若い!)に蘭雪茶を献上し「天下第一茶」の誉れを得る。さらに安徽安撫使に任ぜられ、玉児を正式に妻に迎える。

 新婚早々、古平原は家族とともに南京に招かれ(ほぼ拉致)、両江総督(江蘇・安徽・江西を統括)の瑞麟に仕えることになる。ここで再び出会ったのが李欽。二人はライバルとして競い合いながら、南京の歓楽街・秦淮河の復興、河川堤防の修復、米価の安定、塩田の整備などに取り組む。

 【ネタバレ】あるとき、古平原の母親は、李欽の父親・李万堂の姿を見て卒倒する。李万堂こそ、行方不明になっていた古平原の父親だったのだ。李万堂は、科挙のために上京する途中、戦乱や疫病に苦しみ、李家の小姐に助けられ、前半生を捨てて商売の道に入った。かつて古平原の科挙受験を邪魔したのも李万堂だった。一方で、商売が私欲の追求だけになってはならないという哲学では、李万堂は、李欽よりも古平原に自分に似たものを感じていた。しかし古平原は父親を許せない。李万堂は、金山寺で剃髪出家し、最後は自ら命を絶つ。ある意味、父親に棄てられた李欽は、古平原に徹底抗戦を挑み、人々の命の綱である塩田を英国人に売り渡そうとする。なんとか塩田を回収した古平原は、李欽と和解し、歴史の表舞台から身を引いて故郷の農村に帰っていった。

 久しぶりに陳暁の弁髪姿を愛でたくて見始めたドラマだが、展開がスピーディで、雪と氷に鎖された流刑地から、今日も古城として名高い平遥、モンゴル草原、江南の水郷など、変化に富む風景が楽しめた。調べてみると、流刑地の寧古塔も、山西晋商八大家もちゃんと典拠があった。李万堂のモデルは、孟洛川(1851-1939)という大商人ではないかという論評も見た。李成の反乱軍は、おそらく暗に太平天国を指していたのだろう。

 基本的には主人公の古平原が、商人(生意人)としてビジネスバトルを勝ち抜いていく物語で、米や塩など、民衆の生活必需品を過度に商売の道具にしたり、気軽に外国に売り渡してはいけないという商人のモラルも語られる。なのだが、終盤は父と二人の息子の三角関係に見ごたえがありすぎて、正直、商売の成功不成功はどうでもよくなってしまった。李万堂役の黄志忠さんは『天下長河』の靳輔で覚えた俳優さんで、序盤の李万堂はただの敵役の大富豪に見えたので、もったいない配役だと思っていたら、終盤の見せ場で画面に釘付けになってしまった。その他にも、常四爺の成泰燊さん、廖先生(古平原の弟の恋人の父親)の劉佩琦さん、瑞麟の梁冠華さん、王天貴の呉樾さんと、中高年男性俳優陣がやたら充実していて、私にはお得なドラマだった。

 李万堂は、貧乏のどん底を体験した結果、決して貧乏に戻るまいと誓い、息子(李欽)には一生涯不自由のない財産を残そうとする。この心境、いまの中国の高齢世代にはかなり共感を呼ぶのではないか。そして父親を敬愛するがゆえに、その親心に反発する李欽も心根が純粋で、憎めないお坊ちゃんでよかった。演じた羅一舟さんは歌手でもあるのね。覚えておこう。