見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

武侠迷から金庸先生に捧ぐ/中華ドラマ『華山論剣』(1)

〇『華山論剣』全30集(騰訊視頻他、2025年)

 評価は分かれるかもしれないが、個人的には、かなり好きなタイプの作品だった。確か初期の情報では『金庸武侠世界』という総合タイトルで全5ユニットが制作される、という話だったように思う。2024年に原作の『射鵰英雄伝』のストーリーにほぼ準拠した(かなり端折ってはいたが)『金庸武侠世界・鉄血丹心』全30集が公開された後、残りはどうなるんだろう?と思っていたら、この夏、めでたく『華山論剣』のタイトルで「九陰真経」「東邪西毒」「南帝北丐」「五絶争鋒」の4ユニットが連続公開された。

■「九陰真経」全8集

 『射鵰英雄伝』前夜の物語。豊かな商人の家庭で幸せに育った梅若華は悪人・邱雲海に両親を惨殺されてしまう。たまたま遊歴の途中だった黄薬師に助けられ、武効を修得して復讐をするため、弟子入りを願う。黄薬師の妻・馮衡の口添えもあって、梅超風の名前を貰い、兄弟子たちとともに修行に励むが、復讐への執着は止み難く、武功の奥義書「九陰真経」をめぐって黄薬師と対立し、馮衡や兄弟子たちを傷つけてしまう。

 「九陰真経」下巻のみを得て桃花島を離れた梅超風と兄弟子の陳玄風は、黒風双煞と恐れられながら、西北に流れ着き、モンゴル人の集落で、しばし安楽な日々を過ごす。しかし梅超風を仇と狙う江南七怪の柯鎮悪に出会って両眼をつぶされ、陳玄風は幼い郭靖に命を奪われる。

 調べたら、梅超風の元の名前が梅若華というのは原作『射鵰英雄伝』にあるようだ。しかし両親を殺され、その復讐のため~というのは創作らしい。巧く作った物語だなと思った。梅超風は、黄薬師夫妻にも(陳玄風以外の)兄弟子たちにも十分な恩義を感じているし、桃花島の暮らしに愛着を持っている。陳玄風ももちろんそうなのだが、梅超風は復讐をあきらめることができず、陳玄風は惚れた妹弟子を見捨てることができず、二人で荒野にさまよい出る。むかしの少女マンガで見た不良カップルの物語みたいだと思った。

 そして、広い世界で頼れるのはお互いだけという状態で、陳玄風を失い、本当に天涯孤独になってしまう梅超風。憐れむべし。その後、長く郭靖を恨み続けるのも道理だと思った。

■「東邪西毒」全8集

 これは、青年時代の東邪・黄薬師(周一囲)と西毒・欧陽鋒(高偉光)が出会い、友情を結ぶ物語。舞台は巴蜀(四川省)。父親と二人で旅をしていた馮衡は、塩幇(塩商人)の一味に襲われ、父を殺され、崖落ちしたところを、近くで修行中だった黄薬師に助けられる。そこに通りかかったのは、西域から臨安府を目指して旅の途中だった欧陽鋒と二人の従者の一行。彼らは、塩幇・扈家と紫金堂・柴家の権力抗争に巻き込まれていく。紫金堂の女戦士・耽敏は欧陽鋒に恋をして追いかけまわすが、相手にされない。

 最強の武功の持ち主なのに、ずっと一人で修行を続けてきたため、人との付き合い方がよく分からない、コミュ障みたいな黄薬師がかわいい。一方、全く物怖じせずに人の懐に入っていく、いかにも育ちのよい好青年の欧陽鋒もむちゃくちゃかわいかった。これ、どこでどうやって陰険・凶悪な悪役キャラに変化するんだろう?とかなり戸惑いながら見ていた。耽敏の恋心に応える気はなかったようだが、最後は「朋友」として一緒に敵と戦い、自分を守って倒れた耽敏を手厚く葬る。

 全体に配役が濃くて、塩幇の足の悪い幇主・扈千手を尹鋳勝、紫金堂・柴府の当主・柴煜を連奕名。顔を見ただけで武侠ドラマ!という気分が盛り上がる。さらに柴府の隠居老人・柴穹(許君聡)が魅力的だった。黄薬師には負けるものの、欧陽鋒は全く歯が立たない武功高手ジジイ。しかしイタズラ好きで、ちょっと老玩童っぽい。中国人、こういう強くて自由なジジイが好きだよな。

■「南帝北丐」全8集。

 こちらは南帝・段智興(何潤東)と北丐・洪七公(明道)の物語。大理国の世子・段智興は江湖にあこがれて王宮を抜け出し、たまたま出会った洪七と意気投合して、お互いの持ち物を交換する。丐幇の一員に成りすました段智興は、大壮(王成思)と江湖の珍道中を楽しむ。洪七は、段智興と間違えられ、大理国との縁組を望む少数民族の女性たちに言い寄られて大弱り。大量の毒を飲まされるが、不思議な小坊主に命を救われる。

 洪七と段智興にはある因縁があった。洪七の父親は、もとは大理国の軍人で、段智興の父親である国王の段義長と固い信頼で結ばれていたが、あるとき、約束の援軍が派遣されず、妻を亡くし、自らも傷を負ってしまった。父親に託された敵討ちを果たすため、段義長と対峙する洪七。しかし自らの罪を自覚する段義長は抵抗しようとしなかった。そして恩讐ある者たちは死し、少数民族の女首領で、洪七に思いを寄せていた依火も乱戦の中で死んでしまう。段智興と洪七は、江湖でまた会うことを誓って別れる。

 これも巧くできた展開だった。段智興と洪七のメインストーリー以外に、おお!と膝を叩いたのは、謎の小坊主が「降龍十八拳」の秘訣を記した文書を洪七に与える段。小坊主の正体は虚竹だったのである(『天龍八部』には、喬峰が義弟の虚竹に伝授する一段があるらしい)。時代設定的には、このとき虚竹が生きていれば相当の高齢のはずだが、なぜ小坊主?という問いに対して、中国の配信動画のコメント欄で「天山童姥の弟子だから」と回答している人がいた。そうだ、天山童姥は何度でも若返る秘法を身に着けていたのである。しかし『天龍八部』の虚竹といえば最近作(2021年版)の純粋だが愚鈍なイメージが強くて、え?こんな賢い小坊主になっちゃうの?と笑ってしまった。

 本編の黒幕、大理国の転覆をたくらむ洒族大祭师は、どう見ても段延慶だったんですけど、いいのだろうか? 大理国王・段義長が修慶(2003年版『射鵰英雄伝』の欧陽克)なのに反応している人は多かったが、修慶さんには欧陽鋒をやってほしいなあ、いつか。

 最終ユニット「五絶争鋒」は別稿で。