〇日本民藝館 『抽象美と柳宗悦』(2026年1月6日~3月10日)
柳宗悦(1889-1961)の晩年にあたる1950年代は、日本の美術界で抽象美術が大きな注目を集めた。柳も抽象美についての論考を発表し、雑誌『民藝』での抽象紋特集に発展した。本展は、特集に掲載された抽象紋の工芸を軸に構成し、柳が見た「抽象美」とは何かを探る。
ということなのだが、テーマは「抽象美」と思って、身構えて入っていくと、玄関ホールにおなじみ、『開通褒斜道刻石(かいつうほうやどうこくせき)』の拓本が展示されていたりする(左幅のみ?)。意味ある文章を刻んだ碑文の拓本なのだが、独特の字体で、しかもかなり摩滅しているため、抽象模様に見えなくもない。中央のケースには、室町時代の仮名文や流麗な行書も展示されており、読めないけれど、デザイン的な美しさは分かるので、これってほぼ抽象美だなと苦笑する。そのほか、何の形を模したのかよく分からない巨大な自在鉤や、五色に塗り分けた漆盆などが展示されていた。
見上げた視線の先にあった『紺地城文様夜具地』(明治時代)は紺地に白で城の櫓を描いたもので、絣の技術を用いたドット絵みたいなデザインが面白かった。しかも櫓の左右にぐるぐる回る(?)矢車が浮かんでいる。一見、具象画なのだが非現実的で楽しい。
特集展示のメイン会場である2階の大展示室は、オセアニアとかポリネシア、北アメリカ先住民など、海外ものがいつもより多めな感じがした。彼らの布製品は確かに抽象模様なのだが、これは野の花じゃないか、これは動物の顔じゃないか、などとぼんやり考えてしまった。中国、朝鮮、アイヌ、琉球などの工芸品もばらばらと並んでいるが、どれがどの地域、どの時代に由来するかは全く見分けがつかない。私が強く惹かれたのは『鉄釉貼付文甕棺』。江戸時代の作だが、縄文時代の深鉢にどことなく似ていた。
2階の併設展「朝鮮の白磁と石工」は、白磁と黒い工芸品(石および鉄?)を並べて、白と黒のコントラストを演出していた。「神仙炉」という名前を見て、神仏に供える香炉か何か?それにしても一人鍋にちょうどよさそう、と思ったのだが、調べたら本当に宮廷料理用の鍋だった。小ぶりな火鉢も4件出ていて、我が家に欲しくなった。「工芸作家の動物文様」には『鴛鴦図』と題して、八大山人の『叭々鳥図』そっくりの片足立ちするトリを描いた画幅があった。また、結城沙弥郎さんの楽しい染織作品も出ていた。ほかに「日本の漆椀」。
1階「陶磁器にみる植物文様」では、『染付蓮華文角香炉』(江戸時代)という素敵な作品に出会った。小さな四角形の香炉の側面いっぱいに染付で蓮花を描いたもの。民藝館の所蔵品データベースに写真が掲載されているので、名品なんだと思う。ほかに「吉祥文の染織」。もう1室は閉室中で、2/1から「西洋の藍絵」が開室するという。しまった、2月まで待てばよかった、とちょっと悔やんだ。