〇奈良国立博物館 『第72回正倉院展』(2020年10月24日~11月9日)
新型コロナの影響で、さまざまなイベント・展覧会が中止・延期になる中、今年の正倉院展はどうなるのか、ずっとヤキモキしていた。9月の半ばくらいだったと思うが、奈良博から「プレミアムカード会員の皆様」宛ての封書が届いた。今年の正倉院展は完全予約制になること、プレミアムカード会員優先日時が設けられたことのお知らせだった。そこで、まずこのプレミアム優先回(11/1(日)10:00)に申込み。さらにプレミアムカードは同じ展覧会に2回入場できるので、前日10/31(土)18:00の回も、発売開始後すぐに予約した。1回目で会場内の配置を把握して、2回目は最前列でゆっくり見たい宝物の前に直行するというのが、近年の私の鑑賞スタイルなのである。今年は『墨絵弾弓(すみえのだんきゅう)』(2007年にも見た)が出ると聞いたので、これは最前列で見なくては、と意気込んでいた。
さて土曜日は、朝、東京を出発し、名古屋の徳川美術館、京都の京都国立博物館に寄り道して、陽が落ちかかる頃に奈良公園着。なら仏像館をさっと見て、正倉院展の列に並ぶ。ピロティではなく、新館の東側奥のテントの下に列をつくらされた。係員さんがまわってチケットのチェックと検温を済ませたあと、時間になると入口に向かってゆっくり移動する。50人で前半・後半を区切っていたので、30分ごとに100人に制限していたのではないかと思う。
私は前半の終わりの方で入場したのだが、中に入って驚いた。空いてる! 第1展示室、ほとんど人がいないのだ。いつもの正倉院展の三分の一か四分の一、いや五分の一くらいか。人だかりで宝物が見えない展示ケースというものがひとつもない。これは…快適!
冒頭は『御甲残欠(おんよろいのざんけつ)』で赤錆びた鉄の小札(こざね)がびっしり木箱に並んでいた。今年の展示は最初と最後に武具。それから薬材がまとめて出ており、正倉院宝物の実利的な一面が見えて面白い。『五色龍歯(ごしきりゅうし)』はナルバダゾウ(古代の大型ゾウ)の歯の可能性があるそうだ。赤く透ける宝石のような卵形の『雄黄(おおう)』は猛毒の流化ヒ素鉱物。解毒や殺菌の薬効があるとのことだが怖い。
中央アジアふうのフェルトの敷物『花氈』や鮮やかな赤色の『色氈』はたぶん初めて見た。西新館の最初の部屋に、お目当ての『墨絵弾弓(すみえのだんきゅう)』。しかしほとんど人がいない! あと長い弾弓が横置きになっていたのもありがたかった。細い弓の表面には、豆粒ほどの大きさで歌舞や曲芸、雑技に興じる人々の姿が描かれている。これは長安の祭日の風景なんだろうなあと想像する。
『平螺鈿背円鏡(へいらでんはいのえんきょう)』は唐草文の間につがいの鴨、犀や獅子の姿がある。ずんんぐりした犀と獅子が可愛い。正倉院に同種の螺鈿鏡は9面あるそうだが、これは平成7年(1995)以来の出陳なので初見だと思う。『孔雀文刺繡幡(くじゃくもんししゅうのばん)』も優美で素晴らしかった。『縹纐纈布袍(はなだこうけちのぬののほう)』はオレンジ色の大きな格子柄のような上着で、これは見た記憶があったが、『紫綾半臂(むらさきあやのはんぴ)』は囚人服みたいな青の縞模様(よく見ると対角線に薄い赤の縞が入っている)。布もの・刺繍は面白いなあ。
文書類は、疫病流行のため租税が免除されたり、高齢者に稲穀の支給があった記録のある正税帳が出ていて、今年に合わせたのだろうと思った。最後は、珍しい『馬鞍(うまのくら)』。奈良時代のものだというが、基本的な構造は変化しないのだな。シンプルで実用的な感じのする『金銅鈿荘大刀(こんどうでんかざりのたち)』、梓弓、鞆、胡禄(やなぐい)など。3メートルを超える鉾も展示されていて、文と武の交錯を感じる今年の正倉院展だった。
結局、土曜の夜に十分堪能できてしまったのだが、今朝、もう一度復習してきた。参考コーナーで、むかしながらの工法で正倉院宝物の花氈を再現するビデオが流れていて面白かった。今年は出陳されていない花氈なのだが、ちょっと正倉院宝物とは思えない素朴な草花模様は可愛かった。あの本物が見てみたい!
※参考※
・窯元日記復活(ブログ):奈良国立博物館特集展示「正倉院宝物 花氈第17号の文様再現」(写真もあり、詳しい記事)
・宮内庁:正倉院(こんなサイトができていたことに驚く。宝物検索によれば、復元対象になったのは「花氈 第17号」)
・『正倉院紀要』第42号「正倉院の花氈に関する報告-製作技法-」(ジョリー・ジョンソン)