〇『蔵海伝』全40集(優酷、2025年)
人気俳優・肖戦(シャオ・ジャン)主演の復讐古装劇ということで注目を集めていたドラマだが、私はあまり感心しなかった。舞台は架空の王朝・大雍(雰囲気は明代)。欽天監監正・蒯鐸の幼い息子・稚奴は、ある晩、辺境に派遣されていたはずの父親が、突然帰宅したことを知る。蒯鐸は妻と子供たちを集めて、ともに旅立とうとするが、武装した一団に踏み込まれ、一家は殺害される。ただ地下室に隠れていた稚奴だけが生き残り、仮面の人物・恩公に助けられる。
稚奴は都を離れた土地でさまざまな教育を受けて育つ。10年後、青年となった稚奴は蔵海という名前を得て、師父のひとり高明とともに、両親の仇である平津侯・荘蘆隠を討つために都に戻ってくる。蔵海は風水や土木・木工の知識で平津侯に気に入られ、その食客となる。平津侯には正妻の子・荘之甫と亡き愛妾の子・荘之行という二人の息子がいた。遊び人だった荘之行は、蔵海の助言で武士の本分に目覚め、父親を喜ばせる。
10年前、平津侯が蒯鐸一家を襲ったのは、蒯鐸が辺境から持ち帰った「癸璽」を奪うためだったことが分かってくる。癸璽は草原の異民族国家・冬夏に伝わる宝物で、瘖兵(ゾンビみたいな不死の兵士たち)を呼び出すことができると言われていた。絶大な兵力=権力を手に入れるため、蒯鐸を陥れたのは、大将軍の平津侯、太監の曹静賢、そして三人目は冬夏国の女王と見做された。蔵海は、枕楼の女老板にして、実は冬夏から大雍に人質として送られた公主の香暗茶を憎からず思っていたので衝撃を受ける。しかし、これは誤情報だったことが分かる。
【ネタバレ】平津侯、曹公公を倒した蔵海の前に恩公が現れ、仮面を脱いで素顔を見せる。恩公の正体は内閣次輔の趙秉文で、癸璽の在処と三人目の仇敵を蔵海に暗示する。確かに癸璽は見つかったものの、蔵海は趙秉文こそ三人目の仇敵ではないかと疑う。そしてその疑いが証明されるときがきた。蔵海と香暗茶は冬夏国の聖地、かつて父の蒯鐸が癸璽を発見した地下の聖堂を探し当て、癸璽の真実を知る。権力の妄念に囚われた趙秉文は瘖兵の幻覚によって命を落とす。
ざっとこんなあらすじ。蔵海、香暗茶、荘之行が10年前の幼少時代に出会っていたり、蒯鐸と若き日の皇帝が身分を超えた友情を育んでいたり(それゆえ、蒯鐸は危険を冒して癸璽を皇帝に届けようとし、蔵海は皇帝に救われる)、よくも悪くも過去の因果が現在につながる話のつくりは私の大好物である。しかし、三悪人の平津侯、曹公公、趙秉文が幼い頃、大雍学宮という学び舎で、肩を寄せ合うように過ごした苦学仲間だったというエピソードは、あまり活かされていなかったように思う。趙秉文が蔵海を助けて、旧友二人に対する復讐者に育てた理由もよく分からなかった(癸璽を探し当てることを期待したというが、まだ海のものとも山のものとも分からない少年にそんな期待をするかなあ)。
平津侯・荘蘆隠を演じた黄覚さんは、弱気な中年男のイメージが強かったけど、押し出しがいいので歴戦の武将役がハマっていた。単細胞でなく、繊細な葛藤を抱えている役柄なのもよかった。曹静賢の邢岷山さんは昆劇出身の方らしい。太鼓の連打で軍勢を指揮したり、興に乗ると京劇(かな?)の一節を口ずさむところが、いかにも中国古装劇のキャラクターらしくて楽しかった。
あと、荘之行の周奇くんは『大理寺少卿游』の陳拾で顔を覚えた。荘蘆隠と荘之行、父と息子の一騎打ちシーンが個人的にはクライマックス。二転三転する途中の展開はそこそこ面白かったのだが、最後は急ぎ過ぎで、全編を通してのカタルシスが希薄だったように思う。