見もの・読みもの日記

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驚愕の「お蔵出し」、日本美術が笑う/森美術館

森美術館 『日本美術が笑う:縄文から20世紀初頭まで-若冲白隠円空、劉生-』

http://www.mori.art.museum/jp/index.html

 久しぶりの森美術館。会場に入ると、無防備な笑いを顔いっぱいに浮かべた3人の楯持人埴輪に迎えられて、いきなり脱力する。最初のセクションは「土の中から~笑いのアーケオロジー」と題して、円形の舞台に、土偶縄文時代、紀元前3000~1000年)と埴輪(古墳時代、5~7世紀)が並べられている。土偶も埴輪も、もちろん「笑い」をたたえた造型ばかりではないはずだが、無数のバリエーションの中から、よくぞ選び出したなあと思われるくらい、見事な笑顔が並んでいる。ヒトだけではない。埴輪のイヌってかわいいなあ! ちゃんと日本犬の特徴を備えている(ピンとした耳、クルリと巻いた尾)。

 次の「意味深な笑み」のセクションに進もうとして、ちょっと戸惑う。この展覧会、会場の作りが非常に面白いのだ。各セクションの中に、ところどころ、さらに仕切られたブースが設けられている。たとえば「寒山拾得」のブース。狭いブース内に入っていくと、作者不詳の寒山拾得の巨大なアップ(室町時代)と、長沢蘆雪が酔って即興で描いた「寒山拾得図」(これも胸から上のみ)という2作品の迫力に圧倒される。ほかに雪村と若冲。ああ~いいセレクションだなあ、と嬉しくなる。

 驚愕の「お蔵出し」セレクションは続く。長い廊下のような順路で、ふと覗き込んだ作品に、私は釘付けになってしまった。作者不詳「桜狩遊楽図屏風」(江戸時代)。女性と若衆(あまり区別がつかない)10数人が遊び戯れている図を描いたもの。江戸初期らしく、長い髪を垂らし、細い帯を腰のあたりで締めているが、そのファッションのエゲツないまでのダラシなさ(帯がほとんど解けかかっている)。煙管を手に緋もうせんの上に寝そべり、頬杖をつき、傍目も気にせずくっつきあっている様子は、いまどきの女子高生みたいだ。うわーこんな遊楽図があったのか、とびっくりした。解説に「岸田劉生がその卑近美を熱愛した風俗画」とあり、納得。個人蔵らしい。

 それから、とりわけ照明を落とした展示室で、細長い展示ケースに近寄って(たぶん絵巻だな、と思いつつ)息を呑む。これは「つきしま物語絵巻」ではないか!! 慌てて解説プレートを見て、作品名を確認する。この展覧会のアドバイザー、山下裕二さんのファンなら、既におなじみのことと思う。赤瀬川原平氏との共著『日本美術観光団』で紹介され、その後、紀伊国屋セミナー『日本美術の愉しみ』(2005年10月)でもスライドで盛り上がった。私は、見たくて見たくてたまらなかった作品である。いや、すごい! ちなみに会場では、赤瀬川さんが注目した”妙にこだわりをもって描かれた馬の脚”の部分が開いているので、お見逃しなく。

 稚拙さの魅力で負けていないのは、長谷川巴龍筆「洛中洛外絵巻」。新発見の洛中洛外屏風だそうだ。デジタル画面が用意されているので、ぜひ「壬生狂言」の部分を拡大して見てほしい。お堂を舞台に、演技してるんだかしてないんだか、よく分からない、脱力系のサル数匹が愛らしい。

 「いきものへの視線」のセクションも、楽しい名品揃いである。若冲の白象、蘆雪の黒牛、神坂雪佳の「金魚玉」!! 私が最も愛するのは、宗達の犬図。どの子も、ころころしていて愛らしい。(応挙の犬みたいに)人間に媚びたところがなくて、ちょっとブサイクで(歌舞伎の隈取りみたいな顔の犬とか)、しかし、ブサイクであることを全く気にかけない、自由な表情をしている。図録の解説にいうように、宗達は「犬が好きだったんじゃないか」と思う。それから、あまり注目したことがなかったが、狩野山雪の「虎図」もいいなあ。上目づかいがお茶目。ごく最近、ロンドンで見出され、里帰りした作品だそうだ。

 ところで、買ってきた図録を見ていると、会場で見た記憶のない作品が含まれていることに気がついた。あれっ。展示替えがあるのか? それならいいのだけれど、もしや見落としたのではあるまいか。この展覧会、会場の作りが複雑なので、ときどき順路が分からなくなるのだ。

 公式サイトによれば、「建築家・千葉学氏による展示ケースデザイン」とわざわざ断っているくらいだから、会場デザインにこだわりがあることは分かる。実際、配置は面白いし、一般の展覧会に比べて、ケースの奥行きが薄く、ぎりぎりまで作品に接近できることも好ましい。しかし、たとえば、英一蝶の「舞楽図屏風」は、裏絵の「唐獅子図」も見られるのだが、裏に回ってみようとする観客は少なかった。宗達の「狗子図」は、若冲「白象図」のケースの裏に嵌め込まれているのだけれど、運よく振り返らないと気づかないと思う。本展にお出かけの方は、時間と気持ちに余裕を持って、見落としのないよう、ご注意ねがいたい。