見もの・読みもの日記

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夏フェス開幕/対決 巨匠たちの日本美術(東博)

東京国立博物館 特別展『対決-巨匠たちの日本美術』

http://www.tnm.go.jp/

 いや、すごい人だった。実は前日も平常展を見がてら、この展覧会の様子を探りに行ったのである。そうしたら、入場規制はしていないようなので、ふーん、最近の特別展ほどではないのかな、とタカをくくっていた。ところが、開館前、既に長い人の列が出来ていた。

 この展覧会は、中世から近代までの日本美術の巨匠24人を2人ずつ組み合わせ、12組の「対決」のかたちで紹介している。したがって、12のセクションは、どこから見ようと、比較的自由だ。大半の観客が流れ込んだ第1会場を避けて、第2会場から見始めたのは、我ながら正しい選択だったと思う。ただ、そのように観客を分散させるには、入口前に大きな会場MAPを掲げておくか、並んでいる観客に会場MAPを配るか(正倉院展方式)すべきだと思う。会場の誘導、手際悪すぎ。

 第2会場は「応挙vs蘆雪」で始まる。すぐに目に入ったのが、蘆雪の『虎図襖』。私は、この絵見たさに和歌山の無量寺まで行ったこともある。元気いっぱいの童心あふれる虎の姿に、はるばる東京までようこそ!と声をかけたくなる。裏面の工夫が見られないのが、ちょっと残念。大きな金地墨画の屏風があって、知らない作品なので、応挙?蘆雪?と首をかしげながら近づいたら、蘆雪だった。『海浜奇勝図屏風』と言って、米国メトロポリタン美術館の所蔵だ。現存する、蘆雪唯一の金地墨画だという。榊原悟さんのいう「即画」の妙が横溢している。漂うユーレイみたいな水際の立木。海上の洞門は、前足を踏み出した虎(無量寺の虎)に似ていて、今にも動き出しそうだ。

 「若冲vs蕭白」も第2会場だったので、空いているうちにゆっくり見られた。点描を用いた若冲の『石灯籠図屏風』は、これまで特に感心したことがなかったのだけど、今回のように照明を落とした会場で見ると、夕日を浴びた石灯籠が内側から輝くように見えて、非常に美しい屏風であることを発見した。蕭白は、代表作『群仙図屏風』に三重・朝田寺所蔵の『唐獅子図』双幅(これは名古屋市博物館で見た)という力の入ったセレクションで、文句なし。堪能した。

 第1会場に入り直したときは、たぶん午前中の人出のピーク。半分を見て分かったことは、12組の「対決」とは言いながら、展示作品のセレクションには、率直にいって差があるということ。そんな中で、「雪舟vs雪村」は、12組の中でも白眉の名品揃いだと思う(特に雪舟)。なのに、通行人みたいに流れていく人が多すぎて、ほとんどケースに近づけない。ちょっと頭にきた。『梅下寿老図』は、かつて東博の平常展で見て、印象深かったもの。雪舟らしからぬ彩色の人物図で、どこか意地悪そうな白髯の老翁と、もっと意地悪そうな鹿を描く。

 『慧可断臂図』、いいなあ。初めて見たとき、ひげ面の汚いおじさん2人の間に微妙な空気が漂っていて、キモチわるい絵だと思ったのがウソのようだ。慧可の切ない表情を見ていると、涙が出てくる。達磨の太い輪郭線は、涙で滲んでいるのではないかと思ったりした。『四季花鳥図屏風』は、もちろん存在は知っていたけれど、実物は初見かもしれない。右隻の棒立ちする鶴とか、左隻の白鷺の足掻き方が面白いと思った。でも、全体像を把握するには、会場内が混みすぎ。

 ぐるぐる回っているうち、第2会場もだいぶ混み始めた。ふと、初めは素通りした応挙の『保津川図屏風』の前に立ってみる。「水」を描いた名作の多い応挙の最晩年の作だという。なじみ深い、自然の情景だと思ったのに、見ていると、だんだん引き込まれていく。実直で平明に見えて、実は天才のひらめきを宿す応挙らしい。左隻の水流の中に、小さな鮎の姿を見つけたときは、嬉しくなってしまった。

 このほか、久しぶりに見ることができて感激だったのは、光琳の『白楽天図屏風』。逆に、等伯の『松林図屏風』や光悦の『鶴下絵三十六歌仙和歌巻』は、東博や京博の平常展で見てるからいいや、と思ってスルー。池大雅の『楼閣山水図屏風』も、ついこの間、平常展に出てなかったっけ?と苦笑。こういうお宝揃いの「夏フェス」は、ありがたい点もあるが、あまり心に残らない展覧会だと思う。