見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

古典籍に注目/古今和歌集を愛でる(五島美術館)

五島美術館 館蔵・春の優品展『古今和歌集を愛でる』(2023年4月1日~5月7日)

 古今和歌集を書写した平安・鎌倉時代の古筆切を中心に、古今和歌集に関わる歌仙絵・古典籍・近代書など約50点を展観する。館蔵品展だからおなじみがほとんどだったが、名品は何度見てもよい。

 冒頭は歌仙絵で、ちょっとこわい顔の『猿丸太夫像』(業兼本、針のように細い筆跡も好き)、恰幅のよい紳士の『紀貫之像』(上畳本)、縹色(青)の袍に老懸という武官姿の『壬生忠岑像』など。白描の『時代不同歌合絵』は向かって左に細面の男性、右にやや下ぶくれの太りじしの男性を描く。歌合は、左・藤原兼輔、右・藤原俊忠が番っているが、伊勢・後京極良経の例を見たら、挿絵は左右が逆になるみたいだった(地図の左京区右京区の並びと同じ)。

 続いて古筆。高野切古今集の第一種、第二種を見ることができた。本展は、キャプションのタイトルには伝承筆者(伝・紀貫之筆など)を残しているが、解説文では、どの時代・誰の筆跡と推定されているか、近年の研究成果を示している。高野切第二種、私の目には流麗・繊細に見えるのだが、解説に「筆力のたくましさが際立ち」とあって、ふーむ、プロから見るとそうなのか、と勉強になった。気楽な好き嫌いで眺めた限りでは、『下絵古今集切』の筆跡が好き(去年の春の優品展でも同じことを書いていた)。継色紙(めづらしき)と升色紙(むばたまの)も出ていた(寸松庵色紙は展示替えで見られず)。

 また本展には、万葉集伊勢物語源氏物語と王朝の文化・風俗に関する資料も多数出ていた。おもしろかったのは江戸時代の『源氏物語図屏風』で、源氏物語の名場面を描いている。冒頭、年若い貴人(光源氏)に拝謁しているのは高麗の相人だと思うが、舞台となっている建物(鴻臚館?)が市松模様のタイルで、ギラギラに異国風である。左端には鷹匠が描かれていて、こんな場面あったかしら?と思ったが、解説を読んだら「行幸」に冷泉帝一行が大原野で大鷹狩をする場面があるそうだ。その下は「常夏」の釣殿で涼をとり、鮎を食す源氏たちだというが、貴人の前のまな板に小さな鮎が縦に並べてあって、笑ってしまった。

 本展の見どころのひとつは、大東急記念文庫所蔵の貴重な古典籍だと思う。私は大学の専門が和歌文学だったので、『八代集抄』(鎌倉時代写)『奥義抄』(室町時代写)『古今和歌集註』(室町時代写)を感慨深く眺めた。金沢文庫本『白氏文集』(鎌倉時代写)は、奥書によれば、入唐僧の慧萼(えがく)が白居易自筆の校訂本を写したものを底本にしたものである。Wikipediaによれば、蘇州の南禅寺のものを会昌4年(844)に筆写させ、日本へ持ち帰ったという。慧萼は生没年不詳で不明な点が多いが、日本と唐の間を何度も往復したらしい。2013年には『不肯去観音』という中国映画が作られているのか~(聶遠が出ている)。ちょっと見たい。

 また『源氏物語奥入(げんじものがたりおくいり)』は藤原定家による源氏物語の注釈書で、大東急記念文庫は、筆跡まで定家に似せた後代の写本(南北朝室町時代写)を所蔵している。近年、定家自筆の断簡(個人蔵)が発見されており、初めて一般に公開されている。展示室2の隅にひっそり展示されているが、貴重な機会なので見逃さないでほしい。刺繍で古代人物をあしらったかわいい表具が印象的だった。

※参考:読売新聞オンライン「国宝の藤原定家「源氏物語」注釈書、欠損1枚が掛け軸に貼られた状態で発見」(2022/4/20)

 なお、恒例の『源氏物語絵巻』は現状模写の公開期間だった。本物の公開は4/29から。