見もの・読みもの日記

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花咲くフィレンツェ/ボッティチェリ展(東京都美術館)

東京都美術館 『ボッティチェリ展』(2016年1月16日~4月3日)

 サンドロ・ボッティチェリ(1444/45-1510)の作品20点以上を集めた日本初の回顧展だそうだ。確かに15世紀の画家の作品を世界各地から運んでくるのは、困難を極める大事業だと思う。同時代の絵画、写本、工芸品などをあわせて、展示品は約80点。

 はじめに登場するボッティチェリの作品は『ラーマ家の東方三博士の礼拝』で、ほぼ廃墟(屋根だけ)の厩の聖家族を大勢の人々が取り囲んでいる。人々の髪形と服装は(よく分からないけど)ルネサンス風、つまりボッティチェリの同時代風。そして、三博士をはじめ、登場人物は、メディチ家フィレンツェの名士たちがモデルに比定されている。右端には長いガウンをまとった画家自身の姿もある。

 作品の周囲には、中央アジア由来の翡翠の杯や古代ローマのカメオ、アリストテレス『論理学』の手彩色写本など、当時のフィレンツェの栄華をしのばせる美麗な品々がたくさん並んでいた。中でも目を引いたのは、メディチ家最盛時の当主、ロレンツィオ・イル・マニーフィコ(1449-1492)の胸像。石?木彫?と、素材が分からなかったが「テラコッタ」とあった。赤や青の彩色はかなり落ちて、全体が茶ばんでいる。いかにも傲岸不遜で人好きのしない風貌だが、ものすごく個性的で魅力的だ。聖人など、理想化された人間が描かれることの多かった当時の絵画とは全く趣きが異なる。青池保子のマンガに似合いそうだと思った。

 1階(赤の壁紙)で目についた作品は、アントニオ・デル・ポッライオーロの『竜と戦う大天使ミカエル』。最近、この絵を見た記憶があるのだが、ツイッターで見たのかもしれない。黒鉄の鎧の上に、ひらひらしたビロード(?)のドレスをまとって戦うんだな、この大天使は。それから、ボッティチェリの師匠のフィリッポ・リッピの作品多数。どれも宗教画。

 2階(青の壁紙)に移動すると、ようやくボッティチェリ登場。大作ばかりでなく、単色のスケッチ画などもあって面白かった。必ず白でハイライトを入れているのを見ると、やっぱり西洋絵画は対象を立体として捉えるんだなあと思う。あと羊皮紙の写本(?)に描かれた挿絵みたいな水彩画があって、印象に残ったが、あとで図録を読んだら「この素描の作者を筆者はボッティチェリに同定したい」とあって、新説なのか。

 『美しきシモネッタの肖像』は文句なく美しかった。今の基準で見ても、趣味のよい髪形とファッション。生身の人間がこんなに美しかった時代は空前絶後ではないかと思い、いや絵画が美しいものだけを描いていた時代なのかもしれない、と思い直した。若い女性の美しさが匂い立つような聖母子像もいくつかあるが、私はむしろ抑制的で記号的(非現実的)な宗教画が好き。『聖ヒエロニムスの聖体拝領』とか『聖母子と洗礼者ヨハネ』とか『オリーブ園の祈り』とか。いずれも晩年の作品だ。

 3階(若草色の壁紙)は、ボッティチェリの弟子からライバルとなったフィリピーノ・リッピ(フィリッポ・リッピの子)の作品を中心に展示する。同時代人は、ボッティチェリの「男らしい」作風に対して、フィリピーノ・リッピを「より甘美な雰囲気」と評したそうで、これは作品を見ると分かる。聖母のほつれ髪や焦点の曖昧な瞳は女性好みだ。でも洗礼者ヨハネと対で描かれたマグダラのマリアは変な作品だなあ。自慢の髪だけは豊かだが、させさらばえ、短いぼろをまとう。まるで蕭白描く鬼女のような。

 私は西洋美術にあまり詳しくないのだが、1年ほど前に見たNHK日曜美術館」のボッティチェリ特集は今も記憶に残っている。確か、画家は晩年、ずいぶん画風を変えたと語られていたが、今回の展覧会では、あまりそのことは感じなかった。ネットで放送内容のまとめを探したら、サヴォナローラの思想の影響下で、優雅さや官能を捨て、虚飾を廃した人間の姿を描いた作品が『誹謗』だという。今回の展覧会に出ているが、とても小さい作品なので、会場だと細部がよく分からない。買って帰った画集で眺めているが、金髪をなびかせる女性像は、やっぱり優雅だと思う。

※参考:テレビのまとめ:ボッティチェリ~女神の瞳に秘められた謎~(日曜美術館)(2015/4/26)

※帰りに東京国立博物館に寄って、国宝室で『善無畏像・慧文大師像』(兵庫・一乗寺蔵)を見たことを思い出したので補記。ニ幅並んだ状態を見るのは本当に久しぶりだと思う(2/17記)。