〇エドワード・ベルガー監督『教皇選挙』(TOHOシネマズ日本橋)
ゴールデンウィークなので、話題の映画を見てきた。非アジア系の映画を見るのはむちゃくちゃ久しぶりだったが、評判に違わず、面白かった。
ある日、カトリック教会の最高指導者であるローマ教皇が心臓発作で急死してしまう。首席枢機卿のトマス・ローレンスは、悲嘆にくれる暇もなく、次の教皇を決める教皇選挙(コンクラーベ)を執行することになった。
選挙の参加資格を持つ枢機卿たちが、世界中からバチカンに集結する。選挙の秘密を守るため、彼らは外界から完全に隔離される。そこに1名の名簿に記載のない枢機卿が現れる。アフガニスタン・カブール教区所属のベニテスはメキシコ出身、多くの紛争地域で活動してきた人物で、前教皇が密かに枢機卿に任命していた。ローレンスは任命状を確認し、ベニテスの参加を承認する(この一件で、前教皇がリベラルな志向の持ち主だったと分かる)。
有力候補と目されていたのは、まず頑迷な保守派のテデスコ枢機卿。これに対立するのは、アフリカ系のアデイエミ枢機卿で、野心家であることを隠さない。さらに穏健派と見做されるが、疑惑の多いトランブレ枢機卿。ローレンスは彼らのいずれも好まず、前教皇の考えに近い、友人のアルド・ベリーニ枢機卿を支持する。しかしベリーニは支持を得られず、かえってローレンスに票が集まり、二人の友情を微妙なものにする。
最初に得票を伸ばしたのはアデイエミ。しかしアフリカ系のシスターのひとりが、かつてアデイエミに捨てられた恋人であることが発覚する。急速に支持を失うアデイエミ。だが、そのシスターをバチカンに呼び寄せたのはトランブレであることが分かる。さらにトランブレは亡くなる直前の前教皇と面会しており、そこで辞任を要求されたという噂があった。ローレンスは、封印された前教皇の居室に侵入し、トランブレの行状に関する調査報告書を発見する。その報告書を枢機卿たちに暴露したことで、トランブレの選出の目も消えた。
残る有力候補は保守派のテデスコ。ローレンスは、自らそのテデスコと戦う意思を決める。そのとき、礼拝堂の外で爆破事件(自爆テロ)が起こり、封鎖されていた礼拝堂の窓が爆風で吹き飛ばされる。
リベラリズムと多元主義の行きつく果てに怒りと嫌悪を明らかにするテデスコ。それに真向から反論したのは、実際に紛争地域で活動してきたベニテスだった。ベニテスの言葉は多くの枢機卿の心を捉え、次の投票で彼が次の教皇に選出される。教皇名はインノケンティウス。
【ネタバレ】選挙結果に満足したローレンスのもとに、助手のレイ(オマリー神父)から驚くべき急報がもたらされる。ベニテス枢機卿がスイスで受けようとしていた手術の詳細。ベニテスは生来、子宮を持つインターセックス(半陰陽)であり、前教皇の助言に従い、子宮の摘出手術を受けようとしたが、考えを改め、神のつくられた身体のままであることを選択した、とローレンスに語る。少しずつ変わっていくカトリック教会の未来を暗示して映画は終わる。
最後に重要な一幕があるらしいとは聞いていたが、なるべく感想や批評に触れないようにしていたので、制作者の意図どおり、驚くことができてよかった。冷静に考えると荒唐無稽な付け足しにも思えるが、教皇選出までの描写が重厚なので、現実味をもって受け止めることができた。
フィクションとはいえ、教皇選挙のディティールを映像で見ることができたのは貴重だった。システィーナ礼拝堂の壮麗な建築、枢機卿たちの礼服も古装劇を見るようで、目に楽しかった。選挙では、公的に行われるのは投票のみで、その他の活動(支援者の取り込みや議論)は、食事や休憩の時間に行われているらしいのも面白かった。
いろいろ自分でも調べてみて、カトリックでは、女性は枢機卿どころか、その前提としての聖職者にもなれないこと、にもかかわらず、最近亡くなられたフランシスコ教皇が、教会における女性の権限の拡大に努めていたことを知った。本作では、選挙のために集まった枢機卿たちの食事や、身の回りの世話をするシスター(修道女)たちが描かれており、その監督官であるシスター・アグネスが重要な役どころとなっている。
誰が教皇になるかは、未定事項であるのだが、じりじり「正解」に近づいていく「謎解き」のスリルがあり、英米のミステリーの系譜に位置づけられるようにも思った。ある意味、周到に全ての布石を打った前教皇こそが「犯人」と言えるかもしれない。最後にローレンスが礼拝堂に紛れ込んだ亀を見つけて、庭園の水路に放してやるのだが、あれは何の比喩なのかな。私にはよく分かっていない。