見もの・読みもの日記

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格差社会の克服/貧困連鎖(橋本健二)

橋本健二『貧困連鎖:拡大する格差とアンダークラスの出現』 大和書房 2009.2

 「格差社会」の論じ手はたくさんいるが、私が信用を置いているのは、橘木俊詔橋本健二のふたりである。山田昌弘はやや疑わしく、三浦展は全くダメ。私は、新奇なネーミングとコンセプトで人目を驚かすタイプより、データでガンガン押していき、堅い政策提言に結びつけるような、旧式の学者のほうが好きなのである。

 本書は、まず、これまでの「日本は格差の小さい国」という常識も、90年代以降の「格差は拡大していない」というキャンペーンも見せかけであったことを、データによって論証する。そして、21世紀の日本の階級構造が、(1)資本家階級、(2)新中間階級(企業の管理職・専門職・男性事務職)、(3)旧中間階級(自営業者)、(4)正規雇用の労働者階級、(5)アンダークラス(派遣・請負・フリーター)の5つのグループに再編されていることを示す。アンダークラスとは、伝統的な労働者階級「以下」に位置する階級の意味である。ここには当然(1)→(2)→(4)→(5)という重層化した「搾取」の関係が成り立ち、(5)には膨大な貧困層が生まれつつある。

 では、格差拡大はなぜ起こったか。「経済のグローバリゼーションと技術革新」という答えは、正しいようで正しくない。グローバリゼーションと技術革新の結果、格差が実際に拡大するかどうかは、その国の政府の政策如何による。だからこそ、私たちは、小渕総理の諮問機関だった経済戦略会議や、小泉政権下の総合規制改革会議にかかわった人々の顔ぶれを忘れてはならないのだ。でも、やっぱり最も大きい要因は、アメリカの圧力なのだろうか。「年次改革要望書」なるものの存在を、私は知ったばかりなのだが。

 そして、格差拡大は何を招くか。財政破綻、年金危機ばかりではない。労働意欲の崩壊は、日本の労働者の平均的な技能水準を低下させる。失うもののない(少ない)貧困層の増加は犯罪を生みやすく、彼らより少しだけ安定した暮らしをしている「普通の人々」も敵意の標的となる。セーフティネットがなければ、新しいことにチャレンジする人も減ってしまう。だから、貧困と格差の克服は、「中流およびそれ以下の人々」全体の利益になるはずである。

 こんなに論旨明快で平易な本、めったにないと思う。高校生くらいから十分読める。ただ、本書の提言に従って、実際に「自己責任論」の呪縛から逃れるのは、本当のところ、しんどい。私の貧困、私の失敗の主要因は「社会の制度そのものにある」なんて、大きな声で言えば、無責任者として袋叩きに遭いそうな気がする。実際、ネット上ではこの種の「袋叩き」が行われているし。私たちは、「私の貧困の責任は私にはない」ということを、もっと堂々と明言する勇気を持たなければならない。そこに躊躇を感じるのは、実は旧社会の庶民さながら、社会(お上)=無謬論にとらわれているのだと思う。

橋本健二のホームページ
酒とクラシック音楽を愛する橋本センセイ、ちょっとファンなのです。
http://www.asahi-net.or.jp/~FQ3K-HSMT/