見もの・読みもの日記

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そして近代へ/アジアとヨーロッパの肖像(神奈川県立近代美術館)

神奈川県立近代美術館・葉山館 『アジアとヨーロッパの肖像/SELF and OTHER: Portraits from Asia and Europe』(2009年2月7日~3月29日)

http://www.moma.pref.kanagawa.jp/

 同じ展覧会を開催中の県立歴史博物館から、地下鉄→横浜→JR→逗子駅からバスを乗り継ぎ、葉山の近代美術館まで(運がよければ)1時間ちょっと。かつて逗子に住んでいた私には、通い慣れたコースである。

 面白いのは、両会場の構成が全く同一であること。「第1章:それぞれの肖像」→「第2章:接触以前-想像された他者」→「第3章:接触以後-自己の手法で描く」→「第4章:近代の眼-他者の手法を取り入れる」と進んでいく。展示作品は同じものというわけにいかないので、ヨーロッパ王侯貴族の肖像画の典型例として、県立歴史博物館には『ウィリアム3世像』があったが、こちらは『ジェームズ2世像』。対比的に並べられた日本の肖像画は、どちらも徳川家康像(東照宮御影)という具合。朝鮮の肖像画を加え、インドの細密画を数点、イギリスの政治家の胸像を1点ずつなど、両会場のシンメトリーが配慮されている。さらに、摺りもの『万国人物之図』などは、全く(?)同一作品を両会場で見ることができ、展示説明も使いまわされているので、デ・ジャブ感覚で頭が混乱してくる。

 ただし、県立近代美術館(葉山)のほうが出品点数は多い。こちらの会場の特徴は、まず、工芸品が多いこと。金蒔絵によるジョン・ロックの肖像(英国蔵)、南蛮人やオランダ人姿の根付、数々の磁器人形など。それから、遣欧使節の写真、海を渡った軽業芸人のポスター(山本小芳一座)、オペラ「ミカド」のプログラムなど、近代初期の異文化交流の資料も豊富。ジャワの影絵に植民地高官の姿が紛れ込んでいたり、ベトナムの年画にフランス人の習俗が描かれているのも面白い。

 日本人による初期洋画も充実している。高橋由一の『花魁』は、気持ち悪い絵だと思っていたけれど、徹底して人工的な外観(髪型・衣装)と、こぼれおちるような生身の肉体(鋭い目をしている)の不整合さに不思議な魅力があって、じわじわとハマる。興味深かったのは、蘭領東インドと呼ばれたインドネシアの初期洋画(肖像画)で、オランダ絵画の沈鬱で内省的な特質が色濃く受け継がれているように思った。

 県立歴史博物館で発見したヘレン・ハイドの可憐な木版画はこちらの会場にもあり。『かたこと』だったかしら。着物姿の若いお母さんが赤ちゃんに語りかける姿。かわいいなあ~。商業美術については、展示説明に取り上げられている『朝のクラブ歯磨』(美人ポスターの優品)と『ローラースケートをする二人の女性』(中華民国時代のモダンガールを描いた珍品)が、どちらも県立歴史博物館にしかないのが、ちょっと不親切。

 また、こちらの会場のみ「第5章:現代における自己と他者」を設け、現代のアジア・ヨーロッパ美術における自己と他者を取り上げる。大衆(商業)アートと純粋(非商業)アート?の区分が溶解していて、理解に戸惑うところもある。たとえば『おめかし』(李慕白・1956年)は、若い女性が百貨店で嬉しそうに試着している図で、欄外の文字は「打扮起来(おめかししましょう)」と呼びかける。これは、共産党政権下で実現した豊かな生活の享受を呼びかけるポスターと、素直に解釈していいんだろうか。その一方、毛沢東共産党首脳の周囲に、さまざまな民族衣装の男女が群れ集う『幸福な時代』(成砺志・1992年)は、裏メッセージが感じられてならない。毛沢東に手渡される白い布は、自死を迫っているのかなあ、なんて思うのだが…。図録を買わなかったので、以上、全くの私見。イギリスの現代作家ジュリアン・オピーもちょっと好き。公式サイトでいろいろ作品が見られる。

 なお、本展はASEMUS(アジア・ヨーロッパ・ミュージアム・ネットワーク)の第1回国際巡回展である由。アジアとヨーロッパ18ヶ国の博物館、美術館が作り上げた共同企画で、このあと、さらに5カ国を巡回するそうだ。各国の反応を持ち寄って比較すると面白いだろうな。

■ASEMUS(Asia-Europe Museum Network)(英文)
http://www.asemus.museum/