■山種美術館 特別展『桜 さくら SAKURA 2025-美術館でお花見!-』(2025年3月8日~5月11日)
毎年楽しんでいる「桜」展。今年は会期ギリギリの5月の連休中に訪ねた。冒頭には松岡映丘の『春光春衣』。川合玉堂、小野竹喬、山本丘人など、比較的写実的な春の風景画が続き、それから名所の桜や詩歌・物語の桜が登場する。今年も土牛の『醍醐』『吉野』を見ることができてうれしい。誰の作品の解説だったか、『枕草子』は「絵に描き劣りするもの」に「桜」を挙げていることが紹介されていた。ふうむ、分からないでもない。
■太田記念美術館 没後80年『小原古邨-鳥たちの楽園』(2025年4月3日~5月25日)
鳥や花、獣たちを、江戸時代から受け継がれた伝統的な浮世絵版画の技法によって描いた小原古邨(1877-1945)は、明治末から昭和前期に活躍し、しばらくその存在が忘れられていたが、近年、注目が集まっているという。私は、2019年に同館が開催した小原古邨展は見逃したので、今回初めて、まとめて作品を見た。博物画的な正確さと、人間くさい愛らしさの配分が絶妙で、鳥好きにはたまらないだろうと思った。そしてずっと水彩画のつもりで見ていて、途中で、いや、これは版画なんだと気づいたときは、その超絶技巧に驚嘆した。あと、ほとんどが「個人蔵」であることにも驚いた。
少数だが、古邨の先駆けとなる江戸・明治の花鳥画も紹介されており、鳥山石燕『鳥山彦』の孔雀図が印象的だった。この人、妖怪画だけの絵師じゃないんだ、ということを初めて知った。
■永青文庫 初夏展『くまもとの絶景-知られざる日本最長画巻「領内名勝図巻」-』(2025年4月26日~6月22日)
『領内名勝図巻』(りょうないめいしょうずかん、熊本県指定重要文化財)は、8代藩主・細川斉茲が、熊本藩のお抱え絵師・矢野良勝と衛藤良行に、熊本領内の滝や名所、川沿いの風景などの絶景を描かせた写生図巻の先駆的作例。本展では、現存14巻のうちから選りすぐりの7巻を展示する。私がこの作品を知ったのは、2010年に東博で開催された特別展『細川家の至宝-珠玉の永青文庫コレクション-』だが、その後、永青文庫で現物が展示されるのは、今回は初めてではないかと思う。
展示の7巻は、それぞれ特色があって面白かった。『益城郡矢部手永之内』には多くの滝が描かれており、公開の「千滝」「五老ヶ滝」は、どちらも日本の風景とは思えない迫力の絶景。膨大な水量が絶え間なく流れ落ちる様子を、白い胡粉の塊の連なりで表現する。これは写真が切り取るのと全く同じ光景である。滝壺や深い淵の水は群青色をしており、岩肌は雪舟を思い出す。『芦北郡田浦佐敷湯浦手永之内』の「牧山」は、山上にひろびろと広がる草原で、豆粒のような牛や馬が遊んでいる。
この図巻の制作を命じた細川斉茲の絵画も出ており、ふかふかの白ネコを描いた『猫図』は、画面への収め方(全身が収まり切れていない)が面白かった。『融姫像』は写実的で、対象への迫り方がクロッキーのようだった。斉茲の文化的ネットワークには、司馬江漢や谷文晃も登場する。黒漆塗りの地球儀は、鉄枠に「文化庚午秋八月、江漢司馬峻製」の文字が彫り込まれていた。
■府中市美術館 春の江戸絵画まつり『司馬江漢と亜欧堂田善:かっこいい油絵』(2025年3月15日~5月11日)
前期に続いて後期にも再訪。後期の見どころのひとつは、江漢の銅版画『天球図』『天球全図』だろう。てっきり静嘉堂文庫から借りたのだろうと思ったら、所蔵者が「京都大学附属図書館」になっていて驚いた。京大、さすがだ。『学術論争図屏風』(帰空庵コレクション)は、あまり見た記憶のない作品で、面白かった。ほんとに学術論争なのかどうか分からないが、緊迫した様子の西洋人の男性たちが面白い。図録の裏表紙にもなっている『寒柳水禽図』は、アオサギ、トキ、カワセミをまとめて描いたもの。公式ツイッター(X)のつぶやきによれば、長らくアメリカの大コレクターに愛蔵された後、近年日本に戻ってきた作品だという。
田善は、江漢に学んだような七里ヶ浜図を何枚も描いているのだが、海の色が、太平洋と思えないような深い青で美しい(北国の海みたい)。『油彩山水図』(帰空庵コレクション)もよかった。洋風画、もっと見たい。