〇『御賜小仵作』全36集(企鵝影視、霊河文化、2021)
軽めの古装ドラマが見たくなって、評判のいい本作を見てみた。仵作(wu3zuo4)は、中国古代の官衙で働いていた専門職で、現代でいう検死官、監察医のことだ(日本の「検視官」は遺体解剖をしない役職だが、このドラマの主人公・楚楚は真相究明のため、ガンガン解剖をする)。舞台は唐の宣宗の時代。犯罪捜査と裁判を統括する三法司では、新たに仵作を雇い入れることになり、黔州(重慶から貴州のあたり)で代々仵作を生業としている家系の少女・楚楚(姓も楚、名も楚)は、採用試験を受けるため、長安を訪れ、三法司の若き長官である安郡王こと蕭瑾瑜と知り合う。蕭瑾瑜は楚楚の卓越した技量と真摯な人柄に惹かれていく。一方、宮中では黔州に関係する官吏の不審死が続き、黔州で偽の貨幣が鋳造されていることが発覚する。
蕭瑾瑜は「採用試験を継続するため」として楚楚を帯同し、気心の知れた景翊、幼なじみの冷月(高貴な家柄だが江湖を渡り歩いている女性)らとともに、黔州へ下り、双子の兄の蕭瑾璃と再会する。瑾璃・瑾瑜兄弟の父である蕭恒は、かつてこの一帯で行方を断ち、死亡したものと考えられていたが、二人の母である西平公主は夫の最期に疑念を抱いていた。貨幣偽造事件の捜査の傍ら、父の行方を捜索する二人は、楚楚の幼い頃、楚家に居候していた謎の男・巫医こそが、彼らの父親であると確信する。しかし巫医はすでに自ら命を絶っていた。蕭瑾瑜はそのダイイング・メッセージから、宮中に大きな陰謀の根源があることを読み解く。
一方、楚楚の出自も次第に明らかになっていく。楚楚の母親・許依香は名家の出で、雲易という武官に嫁いだが、雲易は上官である剣南節度使・陳瓔の反乱に従い、命を落とした。妊娠中だった許依香も殺害されたが、検死にあたった楚楚の父親が赤子を取り上げ、楚家の子として育てたのである。「逆賊」雲氏の生き残りと分かって、楚楚の立場も危うくなるが、蕭瑾瑜は、次第に女性として愛し始めた楚楚を守り抜く。
【このへんからネタバレ】黔州の貨幣偽造の首謀者を突き止めた蕭瑾瑜は、楚楚とともにひそかに長安に帰還。皇帝側近の宦官・秦欒が、かつて蕭兄弟の父親の命を奪い、まさに皇帝暗殺を計画していたことも暴く。秦欒は、蕭兄弟が双子だというのが捏造で、一人は「逆賊」陳瓔の遺児を、旧交ある西平公主が引き取って育てていたことを主張するが、証拠の古文書が偽造であることを指摘され、万事休する。この功績によって、皇帝は蕭瑾瑜と楚楚の結婚を許すが、その条件として、仵作の職を辞することが命じられる。当の楚楚よりも悩む蕭瑾瑜。
ここにもう一人、秦欒と共謀して帝位簒奪を企てている人物がいた。蕭瑾瑜の学問の師である薛汝成。彼は先帝・武宗の子・昌王の直系を自称し、ひそかに協力者を集めていた。蕭瑾瑜と楚楚は、盛大な結婚式を挙行し、敢えて皇帝の来臨を仰ぐことで薛汝成一味をおびき出し、ついに一網打尽にする。皇帝は二人の勇気ある行動を称え、楚楚が仵作を続けることを許可する勅旨が伝えられた。
この作品、若手俳優中心の低予算ドラマで、知名度の高い人気スターは不在(私が知っていたのは宗峰岩くらい)、宣伝もほとんど無かったのに、口コミでどんどん視聴回数ランキングを伸ばしたという。ストーリーとしては、それほど驚く仕掛けはないのだが、キャラクターの魅力で引っ張るドラマである。女主人公の楚楚(蘇暁彤)は小柄でベビーフェイスだが、人々から蔑視されることの多い仵作という職業に強い誇りを持っている。自分の専門知識で恋人を支え、守っていこうとする、迷いのない態度が男前。逆にイケメンで知力抜群の貴公子・蕭瑾瑜(王子奇)のほうが、楚楚の助けなしで心の安定を得られないところがヒロインっぽい。中盤で蕭瑾瑜が真剣にプロポーズするも、楚楚が受け入れない展開があって、驚きながら笑ってしまった。しかし結果として、二人は本当に相手のことを思いやり、一緒に生きていくことを選択する。
皇帝に結婚を許されたものの、楚楚が仵作の職を続けられないことに悩むのは蕭瑾瑜。楚楚は、この機会に謀反人たちを捕えることができ、正義と人々の安寧が守られるなら、それでよい、と達観した意見を述べる。すごいのだ、この女主人公。もちろん「史実」としては、この時代にこんな女性像はあり得ないかもしれないけれど、いま中国の時代劇ファンは、こういうドラマを見たがっているのである。最後にめでたく楚楚は「結婚」も「仕事」も手に入れる。そう、21世紀のハッピーエンドはこうでなくちゃ。
楚楚と蕭瑾瑜を取り巻く男女混合の若者チームは、いつも仲良しで風通しがよく、気持ちよかった。数々の危機に臨んで剣を振るって楚楚を守るのが、女性の冷月というのもよい。冷月は武芸ばかりでなく、毒薬や医術の心得でも活躍する。悪役陣はちょっと弱いが、秦欒を演じた穆懐虎さんは、終盤に渋い歌声も聞かせてくれてよかった。