〇江戸東京博物館 常設展+特集展示『名所江戸百景』(2026年3月31日~4月26日)+特集展示『武家のプライド-江戸博甲冑コレクション-』(2026年3月31日~5月10日)
大規模改修工事のため、2022年4月から長期休館していた江戸博がリニューアルオープンしたので見て来た。調べたら、毎月第3水曜日(シルバーデー)は、65歳以上は観覧無料になるという。へえ~私は昨年、該当者になったところで、4月からフルタイム勤務を辞めて水曜フリーになったので、この制度を利用してみることにした。
水曜の朝、博物館の入口では複数の係員の方が「今日はシルバーデーです~」という案内をしていた。やはり、この日をねらった高齢世代のお客さんが目立つように思ったが、制服姿の高校生グループや、子供連れの外国人の姿もあった。
フリーのチケットを貰って、常設展の入口である6階へ。この動線は、リニューアル前と変わっていない。ゲートを入ると復元された日本橋が待っており、左手に江戸ゾーンのシンボルである芝居小屋・中村座、右手に東京ゾーンのシンボルである服部時計店を眺めることができる。服部時計店? 以前、ここには朝野新聞社の原寸大復元模型が建っていたが、今回のリニューアルで服部時計店に変更された。

確かに服部時計店のほうが建築としては見栄えがするが、明治の文化史・社会史に大きな足跡を残した朝野新聞社の建物を残してほしかったな、と思う。しかし調べたら、朝野新聞社が銀座尾張町の四つ角に本社を移転したのは1876(明治9)年で、その後、1892(明治25)年に新聞の廃刊が決まり、煉瓦造りの本社建物は、服部時計店の創業者・服部金太郎に売却されて、1895(明治28)年に「時計塔」がお披露目された。つまり、朝野新聞社→服部時計店のリニューアルは、そのまま歴史の再現なのである。
ちなみに服部時計店内の展示室にある、銀座煉瓦街のジオラマ(ミニサイズ模型)では、朝野新聞本社の姿を確認することができる。道路の中ほど(左下)で警官に取り押さえられているのは「朝野新聞投石事件」の再現だというが、この事件の詳細はよく分からなった。

同館は、もともと多くのジオラマを展示していたが、今回のリニューアルで新設・改修されたものも多いようだ。
中には、もとからあったのだが、記憶に残っていなかったものもある。見世物小屋や水茶屋が立ち並ぶ「両国橋西詰」の復元模型もそのひとつ。私は、江戸の見世物に関心を持ったのが比較的最近なので、むかしはスルーしていたのかもしれない。

江戸ゾーン「出版と情報」エリアは、以前も大好きだったが、昨年の大河ドラマ『べらぼう』のおかげで、格段に親しみが増した。これは芝にあった絵草紙屋・泉屋市兵衛(甘泉堂)の店先。

「江戸市中の本屋の分布」の説明パネルによれば、芝の泉屋は、本町(日本橋北)とは別のグループに属していたようだ。私の住まいのある本所・深川は、地本問屋・書物問屋は少ないが、40軒の貸本屋敷があったようで気になる。この図は国会図書館所蔵「地本草紙問屋名前帳」「書物問屋名前帳」より作成されたとのこと。
同館のパネルは、文字による解説を最小限にして必ず英訳を付け、視覚的な情報を中心とするなど、方針が徹底されていて分かりやすく、気持ちよかった。

説明パネルの下には、実物資料の展示もあり。これは恋川春町と朋誠堂喜三二による黄表紙『南陀羅法師柿種(なんだらほうしのかきのたね)』。題名からして馬鹿馬鹿しくて笑える。鱗形屋孫兵衛版。

ほかにも、禁書扱いになった喜三二の『文武二道万石通』や山東京伝の『仕懸文庫』も展示されていて、懐かしく眺めてしまった。
こういう歴史資料は、やはり人生の経験値が上がるほど面白くなってくるように思う。玉川上水に関する展示では、むかし住んでいた渋谷区幡ヶ谷近くに「幡ヶ谷分水口」があったことを知り、江戸の物流・水運の展示では、いま住んでいる江東区内にあった中川番所が、葛西方面の農産物を消費都市・江戸に運び入れる口であったことを確認し、川越から千住・浅草への貨物輸送には、新河岸川→荒川(隅田川)経由の早船が用いられたという説明を見て、埼玉に住んでいた頃、東武東上線に新河岸という駅があったことを思い出したりした。
特集展示で歌川広重の『名所江戸百景』全点を一挙に見ることができたのもよかった。『大はしあたけの夕立』みたいに、ほとんど単独で有名になってしまった作品もあるが、まとめて眺めると、江戸の風景の多様性や四季の移ろいが感じられて、しみじみ楽しかった。