見に行った展覧会が溜まってきたので棚下ろし。
■千葉市美術館 企画展・開館30周年・千葉開府900年記念『千葉美術散歩』(2025年11月1日~2026年1月8日)
千葉市美術館が在る千葉という「場」をテーマとした展覧会。よく分からずに行ったのだが、大変おもしろかった。ジョルジュ・ビゴーの描いた稲毛の海岸、県庁や図書館、千葉寺など、描かれた千葉の風景だけでなく、戦前、旧制千葉中学校で行われた洋画教育とそこから巣立った画家たち、戦後のアートシーンの拠点となった画廊や美術家グループなど、知らなった歴史をたくさん学んだ。県立千葉高校には美術館(記念館)があり、本展に明治~昭和期の作品28点を出品している。貴重な作品が陽の目を見てよかった。千葉市美術館の設計者が大谷幸夫であることも、初めて認識した。
■サントリー美術館 『NEGORO 根来-赤と黒のうるし』(2025年11月22日~2026年1月12日)
赤と黒の漆工品「根来」を、根来という呼び名が定着する以前から、中世に特別視された「根来塗」とその周辺、さらに近代の根来愛好までを紹介する。冒頭に「いかにも根来」な朱漆の瓶子が4点と、中央に黒漆の瓶子が展示されていて、漆工品好きの私はヨダレが零れ落ちそうだった。赤と黒は、古代ギリシアの壺絵を想起させる。二月堂の修行衆盤は、東大寺に伝わる11枚のうち3枚が出品されていた。高坏とか折敷とか菜桶は、どれも用の美に徹したシンプルな姿かたちが好き。こういう道具を身近に置いて、日々の生活をしたいものだ。
■府中市美術館 『小出楢重 新しき油絵』(2025年12月20日~2026年3月1日)
東洋と西洋の文化的風土の違いを強く自覚し、日本人としていかに油絵を描くべきかを追究した画家、小出楢重(こいで ならしげ、1887-1931)の回顧展。私は、代表作『Nの家族』は知っていたが、その他はときどき名前を見る程度の認知度だった。なので、大阪・島之内の商家に生まれ、東京美術学校を卒業後は、大阪で制作を続けたことも初めて知った。「裸婦の楢重、楢重の裸婦」と言われるそうだが、私は大阪中心部の街並みを描いた風景画が気に入った。最晩年の芦屋のアトリエから眺めた鉄塔と電線、枯木の横たわる風景画もよかった。
■神奈川県立金沢文庫 「金沢文庫」創設750年記念・特別展『金沢文庫本-流離(さすら)う本の物語-』(2025年11月14日~2026年1月18日)
金沢文庫は、750年前の建治元年(1275)頃、北条実時によって創設され、その後、称名寺の管轄下に置かれた。金沢文庫本は、多くの権力者より求められ、散逸の危機に直面することになる。金沢文庫本に強い関心を寄せた人物のひとりが徳川家康で、家康が蒐集した古典籍は「駿河御譲本」として息子義直へ受け継がれ、その多くは現在、名古屋市蓬左文庫に納められている。本展では、蓬左文庫に伝わる重要文化財の金沢文庫本5件を里帰り展示する。重文5件というのは『河内本源氏物語』『斉民要術』『侍中群要』『続日本紀』『太平聖恵方』らしい。この中では、6世紀初頭、北魏の賈思勰(かしきょう)によって書かれた『斉民要術』に書かれた酢豚の調理法が写真入りパネルで詳しく紹介されていて面白かった。
■三井記念美術館 『国宝 熊野御幸記と藤原定家の書-茶道具・かるた・歌仙絵とともに-』(2025年12月6日~2026年2月1日)
小倉百人一首の撰者としても知られる藤原定家(1162-1241)の自筆記録『熊野後幸記』をはじめ、定家の消息・歌切、肖像などを展示。どうして三井家がそんなに定家の書跡を持っているのか不思議だったが、定家様(よう)の書は、武野紹鷗や小堀遠州に好まれ、さらに松平不昧を通じて広く茶人に広まったらしい。確かに展示されていた遠州や不昧の書は、定家の書跡にとてもよく似ている。解説に「若い人のまる文字も定家様の一種といえます」とあったけれど、丸文字を書いていたのは私(還暦過ぎ)の世代までで、今の若者は書かないのではないかな?! 『熊野御幸記』は、建仁元年(1201)10月に後鳥羽上皇の熊野参詣に随行した定家が記した旅日記で、翻刻付きでまるまる1巻が開いており、写真撮影も可という大盤振舞い。しかし老眼には小さな文字が厳しいので、これは図録購入かなと思ったら、もう図録は完売していた。白拍子とか相撲とか和歌会とか、道中の楽しみらしい、気になる文字が散見された。帰路は水無瀬から船を使っていた。江戸時代に描かれた定家の肖像画が3点あり。髭なし・細面なのが異色な感じがした。