〇山種美術館『LOVE いとおしい…っ!』(2025年12月6日~2026年2月6日)
恋人同士の燃え上がるような愛、親子や夫婦など家族への愛、生まれ育った故郷への愛、身近な動物への慈しみの愛など、さまざまな愛のかたちを描いた日本の近代・現代絵画を中心に取り上げ、紹介する特別展。年末の12月21日に山下裕二先生の講演会『描かれた愛-鏑木清方、北野恒富を中心に』 を聞いたのだが、このときは展覧会を参観するヒマがなく、年が明けてから、あらためて見て来た。本展の見ものは何と言っても、福富太郎コレクション資料室の名品、鏑木清方『薄雪』、北野恒富『道行』、池田輝方『お夏狂乱』の出品だろう。山下先生の講演では、福富太郎氏とのおつきあいやお人柄のエピソードが多数語られた。福富氏没後、なんとかこのコレクションを世に知らしめたいと展覧会『コレクター福富太郎の眼』を企画したが、コロナ禍で十分に宿願を果たせなかった。この春、ようやく再始動が決まったとのこと(→長野県・水野美術館)。喜ばしい。
さて本展の冒頭にあったのは、なぜか奥村土牛の『鹿』。それから「家族への愛」をテーマとして作品が並ぶ。必ずしも家族そのものが描かれているわけではなく、たとえば速水御舟の『桃花』は、長女・弥生の初節句のために描かれた作品。色紙サイズの小品で、宋代院体画ふうの桃花に、痩金体で落款を添える。とてもゴージャス。鏑木清方『佳日』は、昭和35(1960)年、清方80歳の作品だが、旗日に外出する母子を描く。自分の幼い頃の記憶に残る、戦前の東京の風景を描いているのだと思う。
そして福富コレクションの名品3点。まず池田輝方『お夏狂乱』は、お夏清十郎のお夏が、ひとり呆然と地面にへたり込む様子を描く。黒目がちの丸顔のせいか、ほどけた髪のせいか、少し西洋風な印象を受ける。
その隣、北野恒富『道行』は『心中天網島』の小春治兵衛を描く。右隻には、心中を決めて肩を寄せ合う二人。左隻には地面に舞い降りるカラスが二羽。右隻にもうっすらとカラスの姿がある。このカラスが、強烈に「死」を感じさせて私は怖い。小春治兵衛の髪型と着物は、私が歌舞伎や文楽で知っているものとはずいぶん異なる。作者の創意による演出なのか、実際にこういう舞台がかかっていたのか、どっちなのだろう。大きく天を仰ぐ小春の手に、感情を押し殺したような治兵衛が手を添えている。しっかり握るのではない、絶妙な指の開き具合がよいのである。
『道行』の向かい側が鏑木清方『薄雪』だった。『冥土の飛脚』の梅川忠兵衛を描く。これは歌舞伎・文楽の衣装に近いと思ったが、清方は、中村鴈次郎と中村福助の舞台に感興をそそられ、近松の原作とは別の趣きを描いたと説明しているらしい。模様入りの帯(?)のようなものが二人の腰に回っているのは、お互いの体を縛った状態なのだろうか(原作では、心中に踏み込む場面はないはずだが)。近松の文芸が、このような二次創作(?)絵画の名品を生み出したのは喜ばしい限りだが、それでいうと『曽根崎心中』には、絵画の代表作ってないのだな、とふと思った。
小林古径の『清姫』連作8点が、全て展示されているのも今季の見どころ。画面にみなぎる爽快な疾走感が、清姫の一途な恋心を表現していて好き。松岡映丘『おとづれ(山科の宿)』は歴史画の佳品。動物は、西山翠嶂の『狗子』、竹内栖鳳の『鴨雛』など、いずれ劣らずかわいい。「故郷への愛」は、横山操『越路十景』が印象に残った。