見もの・読みもの日記

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即翁コレクションの魅力/「数寄者」の現代(荏原畠山美術館)

荏原畠山美術館 新館開館1周年記念『「数寄者」の現代-即翁と杉本博司、その伝統と創造』(2025年10月4日~12月14日)

 冷たい雨の中、最終日に駆け込みで見てきた展覧会。現代の「数寄者」とも呼ぶべき美術作家・杉本博司の作品と同館コレクションとのセッションをとおして、数寄の精神と茶の美を問う。なぜ杉本博司?と思ったら、荏原畠山美術館新館の基本設計を担当したのは、杉本氏が主宰する新素材研究所なのだそうだ。

 第1展示室は畠山即翁のコレクションから、1954年冬の「新築披きの連会」の茶道具を中心に展示する。これが大変よかった。私はむかし、茶の湯というのは女性の嗜みだと思っていたが、徐々に、むしろ男性の趣味であることを理解するようになった。そのきっかけになったのが根津嘉一郎のコレクションだが、畠山即翁もよいと思う。最近、展示を見に行くたびにどんどん好きになっている。今回の展示品では、まず『黒織部筒茶碗』の厚手でモコモコしたフォルムが可愛かったし、『利休好竹形銚子』の、ぶつ切りにした竹の節を寝かせて注ぎ口を付けたような形、『信楽耳付鉢』の白とピンクのツートンカラーも忘れ難い。

 大きな金細工の珠(印子)を連ねた、長くて重たそうな『印子金鎖』が展示ケースにぞろりと投げ出されていたのには驚いた。「15~20世紀」という漠然とした年代表記だけで、生産国もよく分かっていないようだった。即翁は、これとなんとかの花入を茶会の参加者に披露したという。記憶が不確かなのだが、ゴージャスさでは金鎖に劣らない『金襴手六角瓢形花入』だったろうか。私は『唐物南京玉入籠花入』のほうが気に入って見惚れていた。一見、庶民の生活用品みたいに素朴な蔓籠だが、南京玉を編み込んであるなど、地味におしゃれ。

 展示の冒頭には、徳川家康筆『道中書付』と煙草盆や汲出茶碗の取り合わせが展示されていた。ケース内の敷物に使われていた絞り染めの濃紫の布は、単なる展示具だったようだが、雰囲気によく合っていたので書き留めておく。

 書画では、久しぶりに『清滝権現像』を見ることができた。清滝権現は水神で、即翁が本業のポンプ製作との機縁を感じて手に入れたという話が好き。高貴な女性の姿をした水神は、青い水の溜まった香水瓶みたいなものを持っている?と思ったが、拡大画像を見たら、青い宝玉が炎あるいは光を放っている図だった。あと、なんだか雑な墨蹟があるなと思ったら一休禅師で、可愛がっていたスズメが死んでしまったので「尊林」という号を贈ったというもの。枯れた筆致が味わい深かった。

 第2展示室以降は杉本博司の作品。平安時代の古拙な十一面観音立像の左右に、鎌倉時代の『二十五菩薩来迎図』2幅を配したところは眼福だった。さらにその左右に展示されていたのは『稚児観音絵巻断簡』2幅。鎌倉時代に制作された絵巻の江戸の模本だった。もとの物語は長谷寺霊験記にあり、興福寺菩提院に伝わる観音像の縁起であるという。

 杉本氏の作品は、さまざまな古物や現代の新作の取り合わせの妙が、大きな魅力になっている。鎧袖に載せた百万塔陀羅尼には、何それ?と首を傾げたが、実は高橋由一に『百万塔と鎧袖図』という作品があるのを知って、笑ってしまった。こういう古歌の引用が私は大好き。

 あとで展示リストを見直して、驚いた作品がある。『古銅花入(銘・咲甫太夫)』というもの。え?!咲甫太夫といえば、文楽の織太夫さんの以前のお名前。記憶に残っていなかったので、慌てて画像を検索したら、青竹のような緑色の花入が見つかった。実は大正時代の銅製の雨樋だという。素晴らしい。