〇山種美術館 特別展『日本画聖地巡礼2025-速水御舟、東山魁夷かや山口晃まで-』(2025年10月4日~11月30日)
2023年開催された『日本画聖地巡礼』展の第2弾だというが、私は第1弾は見逃したようだ。展示は、北海道→東北→関東、という具合に地域でまとめられており、北から南へ流れていく。作品の隣には、描かれた「聖地」の実際の写真が小さく添えられている。岩橋英遠『カムイヌプリ』は、北海道の摩周湖に臨む摩周岳のこと。霧の中、奥には黒々とした遠山、手前には緑の山並み、湖面に近いあたりは赤土の壁がむき出しになってる。明確な色彩は、絵画的な誇張を交えた風景だと思いきや、写真がほぼそのままなのに驚いてしまった。
奥田元宋の『松島暮色』は、全く人の姿のない雪景色。今年の夏、観光客でいっぱいの松島海岸を訪ねたことを思い出すと、まるで別世界である。川端龍子の『月光』は、日光輪王寺の大猷院の社殿を描いたもの。日光なのに月光というのは冗談みたいだが、墨色の月が空に浮かんでいる。
1985年の渋谷駅を描いた『暮れてゆく街』(今よりビニール傘が少ない気がする)などを楽しく眺めながら、展示室の角を曲がったとたん、現れるのが山口晃氏の大作『東京圖1・0・4輪之段』。皇居を中心に据えた、東京の細密鳥瞰図である。右半分の手前ににょろりと横たわるのが隅田川で、永代橋を渡った先、私の家は雲の下かな、と気にしながら眺めた。左上には小さく新宿の高層ビル群が見えるが、むかし私が住んでいたのはさらに西側なので描かれていない。神田川の北側にマル秘と書かれた白い空白地帯があるのは、市ヶ谷の自衛隊駐屯地だろうか? ミュージアムショップにA1サイズのポスターは売っていたんだけど買わなかった。もっと高精細画像を拡大して楽しみたい。
京都を描いた作品は多いが、東山魁夷の「京洛四季」連作は何度も見てもうれしい。『年暮る』の静かな街並みは、もう二度と戻ってこない風景なんだなあとしみじみ思う。山口華陽『木精』が、北野天満宮の大ケヤキの根元だというのは初めて知った。木の根に止まってこちらを振り向くミミズクは、華陽が飼っていたものだという。速水御舟『名樹散椿』は、昆陽山地蔵院(通称:椿寺)の五色八重散椿を描いたもの。北野白梅町近くのお寺のようだ。本展では、山崎妙子館長の「ひとこと」パネルがところどころに添えられており、博論のテーマに御舟を選んだ山崎さんは、この地蔵院も訪ねられたそうである。
さらに聖地は海外にも。御舟にベロナやフィレンツェの風景の写生(淡彩)があるのは初めて知った。平山郁夫のシルクロード風景はいずれも1970年前後に描かれたもので、時代を感じる。吉岡堅二(1906-1990)の『龍門幻想』が迫力もあり、印象的だったので、このひとどんな画家だっけ?と調べたら、戦時中は陸軍従軍画家として満州、華北、華中へ赴き、日本画の戦争画を描いている。そして晩年の1981年に龍門石窟の盧舎那仏を描いたのかと思うと、いろいろ感慨深かった。