〇五島美術館 特別展『古染付と祥瑞-愛しの青(Blue)-』(2025年10月28日~12月7日)
今季はやきものか、おなじみのテーマだな、という軽い気持ちで出かけたら、お茶会の日だったせいか、着物姿の女性たちで展示室が賑わっていた。冒頭の単立ケースに展示されていたのは『古染付高砂手花生』(今展のメインビジュアルになっているもの)。頸部の左右にサカナ形の飾り(持ち手?)が付いているのを「鯉耳」と呼ぶのだそうだ。頸部の前後に1人ずつ人物が描かれているのを翁と媼に見立て(ほんとに男女だろうか)、胴部の植物文を松(ひょろひょろしている)と見做して「高砂手」と呼ぶ。無理やりだなあと苦笑したが、そのおおらかさが楽しい。北村美術館の所蔵だという。壁の展示ケースの始まりの『染付雲堂手茶碗(紀三井寺)』も面白かった。同名の器が2つ並んでいたが、特に最初のもの。本来は香炉だったと思われる大ぶりの茶碗で、雲をあらわす渦巻文の中に、風に衣をなびかせて人物が立って(浮かんで?)いる。これは個人蔵。というところで、え?と展示リストを見直して、本展が特別展であること、展示品のほとんどが他館からの出陳であることに初めて気づいた。
あらためて展示趣旨。本展が紹介する古染付(こそめつけ)と祥瑞(しょんずい)は、17世紀前半に中国・景徳鎮民窯で焼造され、日本に将来された染付磁器で、古染付は鈍い発色の青い文様が描かれた余白の多い自由奔放な器、一方の祥瑞は鮮烈な青色の精緻な文様が器面を覆う華やかな器である。私は両者を関係づけて考えたことがなかったが、古染付は明・天啓年間(1621-1627)に生まれ、その後、崇禎年間(1628-1644)に生まれたのが祥瑞らしい。両者は連続しているのだな。実は加藤徹先生の『後宮:宋から清末まで』で、明末の宮廷の悲劇を読んだばかりだったので、ヘンな感慨に耽ってしまった。
やっぱり私が好きなのは古染付。かたちも図様も自由で、あきらかに日本人趣味が入っているものも多い。根来の湯桶を模したもの(古染付山水図六角水注)、織部の器を思わせるもの(小染付山水図手鉢)、富士山形があったり、桜文様があったり。『古染付網代櫂文六角水注』(逸翁美術館)は網代文に舟の櫂(かい)が無造作に浮かぶ。このデザインのハイセンスなこと。『古染付蟹童子図袋形掛花生』は、童子のとなりに巨大なカニがいて、ゆるいお伽噺のような絵柄なのだが、これは「一甲」が科挙の上位合格者をいうことに由来する吉祥文なのだそうだ。
そして登場する祥瑞は、青色が格段に鮮やかになり、濃淡のメリハリによって華麗で複雑な文様が可能になる。ただし初期には、古染付ふうのふんわりした趣きを有するものもあって「元祥瑞」と呼ばれている。私が特に気に入ったのは、湯木美術館の『祥瑞蜜柑水指』と泉屋博古館東京の『祥瑞砂金袋形水指』。どちらも変化の多い文様が楽しくて見飽きない。
展示室2には、古染付・祥瑞の出土資料や後世の作家による「写し」の作が展示されていた。『古染付葡萄棚水指』(野村美術館)は根津美術館にも類似の作品があったと思う。『古染付鳳凰図芋頭水指』(滴翠美術館)はピヨピヨ鳳凰っぽくて可愛かった。