〇奈良国立博物館 特別展『第77回正倉院展』(2025年10月25日~11月10日)
正倉院展は全日程「日時指定券」必須だが、奈良博メンバーズカードを持っていると、いつでもふらりと入れる。なので今年は、初日の10月25日(土)16時過ぎを狙って行ってみた。そうしたら、春日塔跡の芝生をまわって、延々と伸びる待機列。えっと一瞬ひるんだが、16時の入場者がどんどん入っていくので、10分も待たずに中に入ることができた。しかし場内は大混雑。コロナの頃はもう少し余裕があったのだが…今はいったい、1時間枠に何人入れているのか知りたい。
今年の見ものは西アジア産の青色のガラスの器『瑠璃杯(るりのつき)』なので、2階の廊下にある場内図で、その展示場所を確認した。順路の最後の部屋に出ているみたいなので、まずは安心して第1室に向かう。『木画紫檀双六局(もくがしたんすごろくきょく)』は何度か見ているおなじみの品。壁際のケースに双六頭(すごろくとう)=象牙製のサイコロと、色とりどりの双六のコマが出ているのだが、人が多くてよく見えない。人と人の間から、ようやくチラリと覗かせてもらう。双六のコマは水晶・琥珀・ガラス製で碁石のような形と大きさ。これも見たことがあったが、今回のように、下から照明を当てて、透明感を引き立たせた展示は初めてではないかと思う。
奈良博の正倉院展のページに掲載されている『出陳宝物一覧』には、前回出陳年が付記されている。今回『投壺』と『投壺矢』が珍しくて、初見だろうか?と思ったら、2013年にちゃんと見ていた。まあこれ、中国古装ドラマでよく見るようになったのは最近なので…。蘭奢待こと『黄熟香(おうじゅくこう)』もあり。大阪歴博の『正倉院 THE SHOW』で嗅いだ、シナモンっぽい香りを思い出した。
西新館に移って最初の部屋は芸能関係。楽器『桑木阮咸(くわのきのげんかん)』『甘竹簫(かんちくのしょう)』や楽舞の衣装、仮面など並んでいた。続いて儀礼の品々。巨大な『象牙』と『馴鹿角(となかいのつの)』が出ていたが、実は象牙は大型クジラ類の肋骨で、トナカイの角はシフゾウの角であることが、最近の調査で確認されたのだそうだ。パネルには「竜のミイラ」として伝わる宝物が、哺乳類のテンではないかという調査も紹介されていた。動物学者や考古学者を交えた宝物調査、とても面白い。
・参考:謎めいた歴史ドラマ 経緯不明の正倉院宝物「虹龍」正体は、11~12世紀のテンのミイラ(産経新聞 2025/4/23)
しばらく布製品が続く。赤・青・緑・オレンジなどで湧き上がる雲のような花の塊を描いたフェルトの敷物『花氈』は大好き。年月を経て退色しているのかもしれないが、派手過ぎない色合いがとてもよい。複製グッズが欲しい。単純化した雲を描いた『浅縹布』も気に入った。現在の千葉県鴨川市から税として納められた調細布(ちょうのさいふ)だという。古文書と写経を見て、いよいよ最後の部屋へ。
最後は1室使って『瑠璃杯(るりのつき)』1点のみを展示。この方式、正倉院では珍しいのではないかと思う。今年は、正倉院展のポスターや図録の表紙など、全てこれである。流布している写真は青色が濃いが、展示ケースでは、強めの光が当たっていて、もっと透きとおった印象だった。パネルだったかビデオだったかで、外側に小さなガラスの輪っかを貼り付ける装飾技法を再現していたのが面白かった。産地は西アジア方面と見られているが、本品のような円環貼付のガラス杯は発見されておらず、韓国・慶尚北道(緑色)と中国・西安(無色)に類品が伝わっているという。なお、前回出品は2012年だそうで、見ているはずなのに記憶がないのがショックだった。
それから仏像館にまわった。お目当ては特別公開の奈良・法華寺の十一面観音立像。といっても、あの有名な十一面ではない。長谷寺本尊の姿を模した(右手に錫杖、左手に水瓶)等身大のかなり大きな十一面である。体部は鎌倉時代、頭部は江戸時代とのこと。ツインテールのようなリボン(天衣?)を頭部の左右に垂らし、パンフレットの写真では外されているが、胸に掛けた瓔珞が膝下まで届く。梵字を宙に浮かべたような、ちょっと変わった光背と相まって、女性らしく、装飾的で華やかな印象。仏像好きらしい中国人女性6~7人のグループが、ガイドのお姉さんの説明を聞きながら、ものすごく熱心に見ていて「好看(きれい)」だけ聞き取れた。