〇サントリー美術館 『幕末の天才絵師 絵金』(2025年9月10日~11月3日)
高知城下で生まれ、幕末から明治初期にかけて数多くの芝居絵屏風をのこした絵金(えきん)こと、土佐の絵師・金蔵(1812-1876)の類稀なる個性と魅力を紹介する。
本展の記事によれば、1966年に雑誌『太陽』で特集されたことを契機に、絵金は小説・舞台・映画の題材として取り上げられ、1970年前後には東京・大阪の百貨店で展覧会が開催されるなど一時ブームとなったという。私が絵金の存在を知ったのは、たぶん80~90年代で、好きになりすぎて、2007年には赤岡町の絵金まつりも見に行ってしまった。東京にいると、なかなか絵金の作品をまとめて見る機会はないが、2023年に大阪・あべのハルカスで開催された大規模回顧展は、万難を排して(?)見に行った。そのときは巡回予定は発表されていなかったと思うが、2024年に鳥取に巡回し、東京にやってきた。「東京の美術館では初の大規模展」だという。嬉しい、みんな見に来て!
第1展示室には、絵金の基準作として名高い、香南市赤岡町の4つの地区が所蔵(絵金蔵所管)する芝居絵屏風を展示。描かれた芝居の内容・登場人物の役柄を解説したキャプションが添えられて、ありがたかった。歌舞伎の演目はだいぶ分かるようになったが、まだまだ知らないものも多いので。男も女も上瞼に濃いアイラインを引いたような顔立ちは、豊国や国周の役者絵を思わせるが、肉筆のせいか、表情が自由で豊か。身をよじって苦痛に耐える女性(または美男の青年)がまさに「狂おしいほど」美しい。
大階段下の第2展示室には、八王子宮(香美市土佐山田町)の「手長足長絵馬台」や朝倉神社(高知市朝倉)の山門型の絵馬台(下をくぐる)が再現されており、高知の夏祭りの雰囲気を想像しながら、絵馬台に取り付けられた芝居絵を鑑賞する。これらは絵金の弟子や周辺の画家の作品も混じると考えられている。
『玉藻前曦袂(たまものまえ あさひのたもと)道春館』には「河田小龍作」の木札がついていた。

なんとなく「血みどろ」具合は、第1展示室より、こちらの方が激しい気がしたが、展示替えもあるので、たまたまかもしれない。前日、静嘉堂文庫で菊池容斎の『呂后斬戚夫人図』を見て、どうしてこんな無惨絵の発想が生まれたんだろう?と思ったが、何も不思議ではなくて、全国津々浦々、こうした血みどろの芝居絵に接する機会はふつうにあったのかもしれない。菊池容斎(1788-1878)と絵金(1812-1876)は、まあ同時代人である。
『釜淵双級巴(かまがふちふたつどもえ)』(石川五右衛門が主人公)の絵馬提灯は、あべのハルカスで見たときも印象的だったものだが、今回、原作(人形浄瑠璃、並木宗輔作)のストーリーをじっくり追ってしまった。石川五右衛門、天涯孤独の大盗賊かと思いきや、先妻と後妻、さらに先妻との間に息子もいて、家族愛に厚い父親に描かれており、とても面白い。残ることの少ない絵馬提灯がこれだけまとめて残ったことに加え、下絵らしきもの(1冊、個人蔵)が残っているのもありがたく、興味深かった。
コロナも開けたし、芝居絵の見られる高知の夏祭りに、一度は行かなくちゃなあ…。