見もの・読みもの日記

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菊池容斎に出会う/静嘉堂の重文・国宝・未来の国宝(静嘉堂文庫美術館)

静嘉堂文庫美術館 2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)開催記念『静嘉堂の国宝・重文・未来の国宝』(2025年10月4日~12月21日)

 大阪・関西万博2025にちなみ、国宝3件・重要文化財17件・重要美術品10件(うち修理後初公開10件)、20世紀初頭の博覧会出品作20件余りを一挙公開する。いくつかの作品には「1895年第4回内国勧業博覧会出品」「1900年パリ万博出品」「1910年日英博覧会出品」などの注釈が付いていて、岩崎家と博覧会の関係の深さを感じさせた。清・陳紹英筆『夏景山水図』は、1970年大阪万博出品とあった。私は小学生で1970年の万博に行っているけど、さすがにまだ古美術には興味がなかった。どこのパビリオンに展示されていたのだろう。

 今回(前期展示)、私が一番楽しみにしていたのは、菊池容斎の『馮昭儀当逸熊図』と『呂后斬戚夫人図』である。どちらも2×1.5mの巨幅で、対幅を想定した構図になっている。私は岡本の静嘉堂文庫にはかなり通っていたのだが、『呂后斬戚夫人図』を初めて実見したのは、2023年のサントリー美術館『激動の時代 幕末明治の絵師たち』で、これは覚悟がないと展示しにくいだろうなあと感じた。かなりの残虐シーンなのである。ちょうど加藤徹先生の『後宮』を読んだばかりだが、漢高祖の皇后・呂后は、側室の戚夫人を憎み、手足を斬り、眼球をくり抜き、ヒトブタにしてしまう。画面はたぶん異時同図法で、左上に髪を乱して引っ立てられてきた戚夫人の姿があり、中央、宮殿の階の下で、まさに手足を斬り落とされ、左下では四肢を失って檻の中にさらされている。左上の宮殿の外に小さく描かれた、縄につながれたみすぼらしい風体の人物も気になるのだが誰だろう? 右下の輿の中に身を潜めているのは恵帝(呂后の息子)だろうか。そして斬り刻まれる戚夫人を冷徹に見据える美女が階の上に佇んでおり、これが呂后か、ずいぶん若いな、と私は思っていたのだが、調べると呂后は御簾の内に座っているらしい。では、この御簾の外に立つ美女は誰なんだろう?

 対幅の『馮昭儀当逸熊図』は初めて見たように思う。漢元帝が後宮に赴いた際、クマが闖入し、馮昭儀(当時は婕妤)という女性が進み出て元帝を護った逸話を描く。中国では「馮媛当熊」という熟語で知られているようだ。どちらも強い女性が主題だが、強さの方向性がかなり異なる。

 菊池容斎(1788-1878)は明治の画家のイメージだったので、なんとなく『呂后斬戚夫人図』も明治の血みどろ浮世絵と同じ時代の好みかな?と思っていたのだが、制作年を見たら、『馮昭儀』は天明12年(1841)、『呂后』は天明14年(1843)だった。制作を依頼したのは、江戸幕府旗本の久貝正典という人物だという。いろいろ興味が湧くなあ。

 容斎の作品は、明・謝時臣の『四傑四景図』4幅と並んでいた。これは歴史上の偉人が若い頃に苦労をした逸話(蘇秦、朱買臣、韓信、呂蒙正)を描いたもの。禅画を別にすると、説話を題材にした中国絵画は珍しいように感じたが、そうでもないのだろうか。日本にあまり入ってこなかっただけ? そして、中国の偉人、妻や女性に苦労をかけて、愛想を尽かされかけていることが多い感じ。

 日本絵画では、酒井抱一『麦穂菜花図』対幅の、まっすぐな麦の穂が並んだ図が可愛かった。渡辺華山が小特集になっており、『芸妓図』は墨色が美しく、着物の皺などがリアルで、近代絵画の女性図だなあと感じた。『月下鳴機図』も伝統的な画題なのに、近景の空間把握が立体的である。