〇五島美術館 館蔵・秋の優品展『武士の雅遊』(2025年9月2日~10月19日)
鎌倉時代から江戸時代にわたり、和歌、漢学、書画、茶の湯など武家文化の諸相を紹介し、肖像画や武家が所持した名品など館蔵作品約50点を展観する。冒頭には、中川寿林筆『加藤清正像』と『加藤清正母像』。え?珍しい!と思って、像主の顔を覗き込んで、これは見たことがあると思い出した。過去のブログを調べたら、2013年と2021年に見ていた。清正、面長で、しっかりした鼻と太い首が、いかにも武将らしい。清正母は西陣織(?)みたいな華やかな着物で若々しい。異国風(?)の天蓋が目を引く。
続いて武士の筆跡、禅僧の墨蹟と水墨画。夢窓疎石の墨蹟『古徳偈』は、のびやかで、かつ品格を感じさせる行書。そして、展示室突き当りには、特別展示で『紫式部日記絵巻』の現状模写と復元模写が並んでいた。現状模写は、はじめ国宝の原本かと思ったくらい、よくできている(原本展示は10月11日~19日)。
角を曲がると、茶道具が続く。『胡銅大曽呂利花生』は細身のシルエットが美しい。漆黒の胡銅に対して、『砂張棒の先水指』(タイ・アユタヤ時代)の砂張は、同じ金属でも黄味がかっている。古裂標本『足徴竒觀(そくちょうきかん)』は、趣味人・松平定信が蒐集したもの。A5版くらいの木箱に、小さいものは指の先ほど、大きいものは箱いっぱいサイズの古裂が収められている。全79段、約560点にのぼるという。2024年の特別展『古裂賞玩』で見たような気がしたのだが、調べると、あれは近衛家伝来のコレクション(MIHOミュージアム所蔵)だったようだ。当時の流行だったのかな。
近代絵画の武士像から、前田青邨筆『装い』と川端龍子筆『武将拝朝図』が出ていたのもよかった。龍子の描く武将は、白馬と並び、両手を合わせて拝礼する姿のバストアップ。鍬形つきの兜、鎧の大袖は赤のグラデーション。右腕にトートバッグみたいなものを掛けている? 中央の平台展示ケースは書籍・文書が中心で、太田南畝の書簡集や、松平定信の随筆集『花月冊子(花月草紙)』が出ていた。展示は校正刷りだそうで、紙を貼りつけて修正を加えた箇所が見えた。
第2展示室は、特集展示『蔦屋重三郎-江戸には江戸の風が吹く』(このサブタイトル、佳き!)と題して、大東急記念文庫の所蔵する洒落本や黄表紙など、江戸時代の書物約40点(展示替えあり)を公開する。大河ドラマ『べらぼう』の、つい最近の回に登場した『悦贔屓蝦夷押領(よろこんぶひいきのえぞおし)』や『文武二道万石通(ぶんぶにどうまんごくとおし)』もあって、テンションが上がった。山東京伝の洒落本『客衆肝照子(きゃくしゅきもかがみ)』に渋江抽斎の蔵書印があるのもおもしろい。小型の展示図録『蔦屋重三郎と洒落本出版-大東急記念文庫所蔵の江戸の版本から』は写真豊富でお買い得だと思う。
この日(10月4日)は14時から「蔦屋重三郎の仕掛」と題した鈴木俊幸氏(中央大学文学部教授)の講演会があったので聞いてきた。詳細なレジュメが配られたが、全部話す時間はないので、蔦重が日本橋に進出したところから始まり、天明年間の「戯作と狂歌の季節」が中心だった。田沼時代の「ゆるい雰囲気」を背景に、武家と町人が融合し、才人たちが集結して、生き生きした文化が生まれる。それは蔦重が積極的に演出したものともいえる。しかし天明期も後半になると、狂歌人口は拡大する一方、当初の才人たちは倦怠感を感じ始める。このとき、商売人としての蔦重が、さまざまな戦略を仕掛けていくのが面白かった。大した文才はないのに、金を積んでも本を出したい(有名になりたい)奇々羅金鶏(ききら きんけい)みたいな人物がいたのだな。
春町、喜三二はどこか尖っているが、町人作家の京伝には大衆性があるという評価は分かる気がした(読んでいないけど)。今年の大河ドラマに関しては、喜三二の尾美さんはいいキャスティングですね、と好意的な発言があった。定信については、言論封殺とか弾圧とか言われるけれど、彼が志したのは幕臣の再教育(立て直し)だけだったという。にもかかわらず、諸藩も幕臣に倣って、学問や武芸の稽古が流行り始めたのは「まあ日本人的というか…」とおっしゃっていたのには苦笑を誘われた。
さらにレジュメには、地本問屋仲間成立、浮世絵出版、書物問屋加入、と気になる話題が書き込まれていたが、ちょうど大河ドラマの進行に合わせたあたりで時間切れ。ドラマが完結した頃に、ぜひ続きを聞いてみたいと思った。
追伸。「五館連携 蔦重手引草」の展覧会は、来場者に特製カード(一ノ瀬圭描き下ろし)の配布をしているのだが(先着2,000名)、五島美術館の「蔦重」は既に配布終了で貰えなかった。残念~。