〇根津美術館 企画展『焼き締め陶:土を感じる』(2025年9月13日~10月19日)
ありそうでなかった展覧会のような気がして、とても面白かった。「焼き締め陶」とは、釉薬を掛けずに高温で焼くことで素地を固めた陶磁器をいう。日本の焼き締め陶は、5世紀頃(古墳時代)朝鮮半島に学んだ須恵器に遡るが、8世紀に施釉陶器が登場すると、過去の技術と見做されるようになる。しかし、15世紀末から16世紀初め、茶の湯の世界では、この素朴な美しさを、中国の青磁などと取り合わせて愛でることが始まった。
という解説を読んで頭に浮かんだのは、伊賀や信楽、備前のやきものだったが、最初に並んでいたのは、東南アジアや中国南部で作られた「南蛮物」だった。砂糖や香辛料の容器を、水指・花入・建水など、水まわりの道具に転用したものが多い。蓋つきの『南蛮〆切水指』は煲仔飯の土鍋を思わせた。『南蛮切溜花入』はシュッとした細身の立ち姿が印象的な花入。実は漆や水銀を運んだもので、大阪や堺の商人居留地からは同種の容器が出土しているという。
それから、いよいよ桃山~江戸時代の日本産の焼き締め陶が始まる。本展のメインビジュアルになっている『緋襷鶴首花入』は、風船のようにぷっくりした丸い胴体に細長い首のついた「船徳利」の首が、故意か偶然か、何かにぶつかって傾いた状態のもの。片面は「緋襷」らしく赤く焼けているのに、別方向から見ると肌が白いのもおもしろい。「備前の土は酒の味を損ねにくい」と言われていることは初めて知った。これは備前の酒器が何かほしいな。伊部(いんべ)と呼ばれる黒色(時に黄味がかる)の備前もよい。
信楽と伊賀の判別が難しい、というのは、私も昔から感じていたことだが、両地域が隣接していることには、言われてみて初めて気づいた。伊賀(三重県)の隣は信楽(滋賀県)だったのか。だるまさんのような『伊賀瓢形水指(銘:呂洞賓)』がかわいい。『伊賀耳付花入(銘:寿老人)』は青緑色のビードロ釉が美しいが、背面は焦げたような褐色。炎に面しないと褐色になるのだそうだ。寿老人は背面に金具のようなものが付いていた。伊賀と信楽の小さな香合を集めた展示ケースに『伊賀木菟香合』があり、先日、泉屋博古館で見た素焼きの鴟鴞尊(しきょうそん)を思い出してしまった。
展示室2は、昭和30年代に小山富士夫の提唱でブームになった「六古窯」などを紹介。個人蔵のやきものが多かったが、中でも『常滑甕』で、窯の中で転倒し、釉薬が斜めに流れ落ちて固まっている壺(甕)が、現代美術のインスタレーションのようで魅力的だった。破損した状態の口に花を活けてみたいと思った。
展示室4は「中世の絵巻物」。『玉藻前物語絵巻』は数ある場面の中から「階段がすべり台みたい」な描写を愛でたり、『酒呑童子絵巻』は寝姿のとぼけた可愛さに注目したり、学芸員さんが楽しんでいるように感じた。『築島(つきしま)』もユーモラスだが、日本民藝館本を思い出してしまうので、巧すぎてパワーが足りないように感じてしまう。展示室5は「菊月の茶事」。再現茶室内に置かれた『銹絵茄子文水指』(尾形乾山作)がちょっと珍しくて、気に入ってしまった。